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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第68回   豚インフルエンザ
きょん姉さんは、小さい頃を懐かしむように、童謡を口ずさんでいた。

 子供が帰った 後からは〜 まるい大きな お月さま〜 ♪
  小鳥が夢を 見るころは〜 空にはきらきら 金の星〜 ♪

福之助は、目を細めて聞いていた。
「いい歌ですねえ。」
「空全体に真っ赤に染まった夕焼けがあってねえ…」
「…」
「子供の頃は、夕焼け空になると、今日はもう、お終いになるんだよ。」
「そうなんですか。」
「あの頃は、なにもかもがロマンチックだったなあ…」
「ロマンチック…」
「カア〜♪カア〜♪とか、アホ〜♪アホ〜♪とか、カラスの真似しながら帰るんだよ。」
「そうなんですか。」
「お腹を、ペコペコに減らして帰るんだよ。」
「そうなんですかぁ。」
ドアは開けたままになっていた。姉さんは、少女がいなくなるまで見守っていた。遠くのほうで、少女が転ぶのが見えた。
「あっ、転んだわ!」
少女は、なかなか起き上がらなかった。
姉さんは、外に出ると、少女に向かって全速で駆け出した。
福之助は、目を丸めて驚いた様子で見ていた。
「早いなあ〜、さすが姉さん。」
姉さんが、少女を起こしてやるのが見えていた。何かを話していた。話し終わると、少女に手を振りながら、見送りながら戻って来た。
「怪我はしてなかったよ。」
「良かったですね。」

テレビでは、集団自殺のニュースをやっていた。

「あんな小さな子供でも、トマトを売って必死で生きようとしているんだよ。死んでたまるか!」
「そうですね。」
「死にたい奴は、死ねばいいんだよ。」
「人間は、心が邪魔をしてるんですね。」
「はっ?」
「人間の心は、劣等感と優越感でつくられています。」
「はっ?」
「劣等感や優越感の背後にあるのは、差別意識です。」
「はっ?」
「ロボットには、劣等感や優越感、差別意識はありません。」
「うん、それで?」
「よって、心の大きいほど、差別意識も大きいという結論に達します。」
「なんだって?」
「これが、わたしのCPUが導き出した答えです。」
「そんなの変だよ。間違ってるよ。お前のCPUは暴走してるよ。」
「暴走なんかしていません。」
「してるよ、きっと。」
「自分の心で悩むなんて、時間の無駄です。非論理的非合理的です。」
「それが、生きてるってことだよ。ロボットみたいに、ただ動いてるんじゃないの。」
「だったら、生きるって、とっても変なことですねえ。」
「お前、ちょっと休んだほうがいいよ。さっきから、言ってることが変だよ。」
「そうですか?」
「おかしなことばっかり言ってるよ。」
「そうですか?」
「人間は、ロボットみたいに単純じゃないの!」
「人間って、悲しいですね。」
「熱暴走かな?CPUの冷却ファン、ちゃんと回ってる?」
「回ってますよ。現在、四十一度です。」
「四十一度かよ、そりゃあ大変だ!入院入院!」
「人間の四十一度は入院ですけど、ロボットは50度までは正常範囲です。」
「そうなの?」
「大丈夫です。」
「じゃあ、狐でも憑いたんじゃないのか?」
「さっきに、おばあさんも同じことを言われました。お前には、狐が憑いてるって。」
「そうだそうだ、おそらく、狐かなんかが憑いてるよ。」
「そうかなあ。」
福之助は、目玉を上に向けて、「コンコン!」と鳴いてみせた。
「狐は、コンコンってなんか鳴かないよ。」
「本には、コンコンと書いてありましたよ。」
「ありゃあ、嘘だよ。」
「じゃあ、なんて鳴くんですか?」
「コケコッコ〜、だったかな・・」
「また、馬鹿にしちゃってえ〜!」
「テレビで見たけど、ギャァ、ギャァ!って鳴いてたよ。」
「そうなんですか。」
「ああ、ほんとだよ。」

テレビでは、豚インフルエンザのニュースをやっていた。

「姉さん、豚インフルエンザが流行ってます。気をつけましょう。」
「そうだね。」
アニーが、心配そうに尋ねた。
「わたし、豚インフルエンザじゃないかしら?」
姉さんは、アニーの傍らまで歩み寄ると、優しい声で慰めた。
「大丈夫ですよ。豚インフルエンザに感染するのは、豚人間だけですから。」
福之助が、相槌を打った。
「そうです、そうです。」
「人間だけが生きているわけじゃあないからね。」
「はい、そうです。」
「ウイルスだって、一生懸命に生きているんだよ。」
「そうですね。」


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