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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第67回   トマト売りの少女
カランコロンと、ドアベルが鳴った。きょん姉さんは、福之助を見ながら言った。
「誰か来たわ。」
福之助がドアに向かって歩き出した。姉さんが呼び止めた。
「ちょっと待って、私が出るわ。」
福之助は丁寧に断った。
「わたしが出ます。」
「いいからいいから、あんたは座って頭を冷やして休んでなさい。」
「大丈夫ですよ。」
「いいから、休んでろ!」
「…はい。」
姉さんは、ドアの覗き窓を覗いた。
「あぁれ?」
誰もいなかった。声が聞こえた。
『こんにちわ!』
下の方から聞こえた。女の子の声だった。
『高野山の、おいしいトマトはいかがですか?』
姉さんは、ドアを開けた。五歳か六歳くらいの小さな女の子が立っていた。
女の子は、ペコリと頭を下げた。
「高野山でとれた、おいしいトマトはいかがですか?」
女の子は、大きな籐(とう)の籠を両手で持っていた。
姉さんは驚いた。
「どうしたの?これ売ってるの?」
「はい。おいしいトマトはいかがですか?」
姉さんは、ドアの外を見た。女の子のほかには誰もいなかった。
「一人で売ってるの?」
「はい。ひとつ百円です。おいしいですよ。」
赤くて大きいイトマトだった。
「どこから来たの?」
「近くの農家から来ました。お母さんが病気なんです。」
「お父さんは?」
「お父さんは、ずっと前に交通事故で天国に行ってしまいました。」
「そぉなの〜!」
「一つ、九十円でもいいですよ。」
「百円でいいよ!買ってあげるよ。」
姉さんの目は、涙で潤んでいた。
「ありがとうございます!いくつですか?」
「ぜぇ〜〜んぶ、買ってあげるよ!」
「え〜〜〜、ほんと〜!?』
「ああ、ほんとだよ。いくらだい?」
「十二個だから、千二百円です。」
「ちょっと待ってね。」
「はい。」
姉さんは急いで、上着の内ポケットから財布を出し、千円札を一枚と百円硬貨を2枚差し出した。
「は〜い。」
女の子は、丁寧に頭を下げた。
「どうもありがとうございます!」
女の子は、ビニール袋を赤いチョッキの小さなポケットから取り出した。トマトを小さな手で、一つ一つ入れ始めた。
姉さんが、思わず手を出した。
「いいよいいよ、わたしが入れるから。」
福之助がやって来た。姉さんは、トマトをビニール袋に入れ終わると、福之助に手渡した。
女の子は、丁寧に頭を下げた。
「どうもありがとうございます!」
「気をつけて帰るんだよ。」
「はい。」
女の子は、夕焼けに染まる山々に向かって、何かを歌いながら去って行った。カラスが、カァ〜カァ〜と鳴いていた。
きょん姉さんには、母さん母さんと聞こえていた。

 夕焼け小焼けで 日が暮れて 山のお寺の 鐘が鳴る〜 ♪
  お手々つないで みな帰ろう からすといっしょに かえりましょ〜 ♪


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