カランコロンと、ドアベルが鳴った。きょん姉さんは、福之助を見ながら言った。 「誰か来たわ。」 福之助がドアに向かって歩き出した。姉さんが呼び止めた。 「ちょっと待って、私が出るわ。」 福之助は丁寧に断った。 「わたしが出ます。」 「いいからいいから、あんたは座って頭を冷やして休んでなさい。」 「大丈夫ですよ。」 「いいから、休んでろ!」 「…はい。」 姉さんは、ドアの覗き窓を覗いた。 「あぁれ?」 誰もいなかった。声が聞こえた。 『こんにちわ!』 下の方から聞こえた。女の子の声だった。 『高野山の、おいしいトマトはいかがですか?』 姉さんは、ドアを開けた。五歳か六歳くらいの小さな女の子が立っていた。 女の子は、ペコリと頭を下げた。 「高野山でとれた、おいしいトマトはいかがですか?」 女の子は、大きな籐(とう)の籠を両手で持っていた。 姉さんは驚いた。 「どうしたの?これ売ってるの?」 「はい。おいしいトマトはいかがですか?」 姉さんは、ドアの外を見た。女の子のほかには誰もいなかった。 「一人で売ってるの?」 「はい。ひとつ百円です。おいしいですよ。」 赤くて大きいイトマトだった。 「どこから来たの?」 「近くの農家から来ました。お母さんが病気なんです。」 「お父さんは?」 「お父さんは、ずっと前に交通事故で天国に行ってしまいました。」 「そぉなの〜!」 「一つ、九十円でもいいですよ。」 「百円でいいよ!買ってあげるよ。」 姉さんの目は、涙で潤んでいた。 「ありがとうございます!いくつですか?」 「ぜぇ〜〜んぶ、買ってあげるよ!」 「え〜〜〜、ほんと〜!?』 「ああ、ほんとだよ。いくらだい?」 「十二個だから、千二百円です。」 「ちょっと待ってね。」 「はい。」 姉さんは急いで、上着の内ポケットから財布を出し、千円札を一枚と百円硬貨を2枚差し出した。 「は〜い。」 女の子は、丁寧に頭を下げた。 「どうもありがとうございます!」 女の子は、ビニール袋を赤いチョッキの小さなポケットから取り出した。トマトを小さな手で、一つ一つ入れ始めた。 姉さんが、思わず手を出した。 「いいよいいよ、わたしが入れるから。」 福之助がやって来た。姉さんは、トマトをビニール袋に入れ終わると、福之助に手渡した。 女の子は、丁寧に頭を下げた。 「どうもありがとうございます!」 「気をつけて帰るんだよ。」 「はい。」 女の子は、夕焼けに染まる山々に向かって、何かを歌いながら去って行った。カラスが、カァ〜カァ〜と鳴いていた。 きょん姉さんには、母さん母さんと聞こえていた。
夕焼け小焼けで 日が暮れて 山のお寺の 鐘が鳴る〜 ♪ お手々つないで みな帰ろう からすといっしょに かえりましょ〜 ♪
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