福之助は、不思議そうに顔を斜めに倒しながら、テレビを見ていた。 「人間って、いろんな人がいるんですねえ。不思議だなあ…」 テレビでは、新日本赤軍メンバーの顔写真を流していた。 「あの人達は、いったい何をしてるんですか?」 その質問に答えたのは、きょん姉さんだった。 「今の政府に不満があるんだろ。そういう人達だよ。」 「破壊活動は無法行為です。処罰されます。あの人達は、法律に違反しています。」 「そんなことは分かっているんだよ。」 「場合によっては、死罪になります。」 「そんなことも、分かってやってるの。」 「…つまり、死ぬ覚悟でやっているってことですか?」 「そういうことだな。」 「姉さんは、奴らに味方しているんですか?」 「味方?」 「そういうふうに聞こえます。」 「敵とか味方とか、そういう小さなことじゃなくって、人間の生き方を言ってるの。」 「奴らは犯罪者です。」 「英雄も犯罪者も、同じなんだよ。」 「はっ?」 「そんなのは、勝った奴らが、後で勝手に決めたことなんだよ。」 「誰がですか?人間がですか?」 「ああ。人間の生き方としては、同感はできないけれど、あっぱれだよ。侍(さむらい)だよ。」 「人間の生き方?あっぱれ?さむらい?」 「人は、ただ生きているんじゃないってことだよ。」 「ただ生きているんじゃない…」 「自らに目的を持って生きているから、人間なんだよ。」 「死ぬ覚悟でですか?」 「そういうこと。」 「自らに目的を持って死んで行くってことですか?」 「そぅいこと。人生は、死ぬも八卦(はっけ)、生きるも八卦(はっけ)ってことだな。」 「死にも八卦(はっけ)、生きるも八卦(はっけ)…、まるで博打(ばくち)ですね。」 「そぅいうことになるかな。」 「姉さんも、死にも八卦(はっけ)、生きるも八卦(はっけ)で生きているんですか?」 「わたしは…、違うよ。わたしの坂道を歩いているんだよ。」 「どのくらいの傾斜の角度の坂道を?」 「うるさいねえ、あんたって。傾斜の角度なんて、どうでもいいだろう!」 「だったら、姉さんの生き方だけでも、よろしかったら教えてください。」 「…野に咲く一輪のユリの花のように生きている!かな…、これでいいか?」 「なるほど!」 「分かったね!」 「お父さんの、教えなんですね。」 「じゃないよ。わたしの、自分の考えだよ。」 「そうなんですか。」 姉さんは歌いだした。
あの山越えて〜 野を越えてぇ〜 わたしはわたしの道を行くぅ〜 ♪ あらえっさっさぁ〜 ♪
「何ですか、その、あらえっさっさ〜って言うのは?」 「掛け声だよ。」 「は〜〜、大したもんですねえ。」 「何が?」 「掛け声ですよ。」 「今、作ったんだよ。」 「大したもんです。」 「才能だな。」 「人間に限らず、劣勢遺伝子は淘汰(とうた)されます。」 「うん?いきなり難しいこと言うねえ。」 「ダーウィンの進化論です。」 「誰が淘汰するんだい?」 「地球の環境、大自然の環境が、適応できる強い遺伝子を選び淘汰するんです。」 「なぁ〜るほど。」 「逆境を越えて行くのが、生物です。動物です。人間です。」 「そうだぁ〜〜!おまえ、ロボットのくせにいいこと言うねえ。大学出?」 「東大は、門から入って、直ぐに出ました。」 姉さんは、吉田拓郎のナンバーを歌いだした。
越えて〜行け そこを〜〜 ♪ 今は〜まだ 人生を語らず〜〜 ♪ 朝陽が昇るから起きるんじゃなくって〜 ♪ 目覚めるときだから〜 旅を〜する〜 ♪ 教えられるものに別れを告げて〜 届かないものを〜 身近に感じて〜 ♪ 越えて〜行け そこを〜〜♪ 越えて〜行け それを〜〜♪ 目の前には〜 道は〜無く〜〜 ♪ 道などは 何も無く〜〜ぅ〜 ♪
アニーは、姉さんと福之助の会話を、ニヤニヤと笑って聞いていた。
|
|