薄暗い野を、小動物たちが、今を生きようとして、必死に駆けていた。 「あっ、リスだわ!」 福之助は、姉さんの隣にいた。二人は、窓のカーテンを少し開けて、部屋の灯りも点けずに、外を眺めていた。 「今のは、違いますよ。」 「リスになってみたいな〜…」 「はっ?」 薄暗い公園広場辺りには、もう人影はなかった。 「あいつら、帰ったみたいだねえ。」 「そうですね。きっと、別の道から帰ったんですね。」 「人のいない高野山は、なんだか寂しい景色だねえ。高野山(こうやさん)は、やっぱ寒いねえ。」 「神様は、いったいリスに何をさせようとしているんでしょう?」 「はっ?」 「人間を作った神様は、いったい人間に何をさせようとしているんでしょう?」 「はぁ〜ぁ!?」 「何か変な質問ですか?」 「おまえ、大丈夫か?どっかで頭打ったんじゃないか?」 「ロボットである私は、人間を助けるために動いています。でも、人間は誰のために、何のために生きているのでしょう?」 「おいおいおい、おまえ、大丈夫か?」 「神様を助けるために生きているんですか?」 「おいおいおい、ほんとに大丈夫か?」 「変な質問ですか?」 「ちょっと、頭を冷やして休んだほうがいいぞ。」 「…現在、外は十二℃、室内は二十℃です。頭部を冷却する必要はありません。」 「いいからいいから、ちょっと休め。」 「大丈夫です。」 「いいから、休んでろ!」 姉さんは、福之助の額(ひたい)に手を当てた。 「ちょっと、熱があるみたいだな〜…」 「大丈夫ですって。」 「アイスノン持って来るから、頭に乗せて休んでろ!」 「大丈夫ですよ。そんなの要りませんよ。」 アニーは、不思議そうな顔で、会話を聞いていた。 携帯の呼び出し音が鳴った。アニーにおまかせのテーマ曲だった。 アニーは、上体を起こして、携帯電話を取った。 「レッドルーク。こちら、国連地球警察のアニーです。」 『……』 「はい、分かりました。」 アニーは起き上がり、室内にあった壁掛けテレビのスイッチを入れた。 姉さんが尋ねた。 「どうしたんですか?」 「大菩薩未来研究所が爆破されたみたいなんです。」 「えっ、大菩薩未来研究所?」 「大菩薩峠にある、政府の新型ロボット研究所です。」 「爆破って、いったい誰が?」 「彼からの連絡によると、新日本赤軍って言ってました。」 「昨日の忍者姿の彼ですか?」 「はい。」 テレビで、臨時ニュースが流れていた。夕闇に、真っ赤に炎上している大菩薩未来研究所が映っていた。
五時半頃、大菩薩未来研究所爆破が何者かによって、爆破されました ロケット砲か、小型ミサイルによるものらしとのことです。 近くで新日本赤軍らしい集団が目撃されていますが、彼らによるものかは、まだ分かっていません。
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