夕陽に染まる茜色の富士山を見ながら、龍次の目は潤んでいた。 「綺麗な景色だなあ・・」 そこには、なぜか生きている実感があった。 「きっと、この自然が、僕を素直にさせているんだなあ…」 風が草花を揺らしていた。 「我、泣き濡れて、風とたわむる…、いいねえ〜!」 龍次は自分で自分を褒めていた。いつものように、センチメンタルで時々コケティッシュな龍次であった。 龍次は、歌いだした。 「ろ〜れん、ろ〜〜れん、ろ〜れぇん〜♪」 遠くの方で、爆発音があった。龍次は、びっくりしてプリウスを止めた。 「なんだ!?」 爆発音があった方向を見ると、黒い煙が上がっていた。 「何事だ?」 農民が、トラクターに乗ってやってきた。プリウスの横で止まった。 トラクターの荷台には、ハイテク案山子(かかし)が二本積んであった。農民をよく見ると、注文した客だった。 龍次は、窓ガラスを開けた。 「いやあ、さっきはどうも。」 「案山子(かかし)を立てて来たんだよ。」 「そうなんですか。」 「うまく作動してたよ。」 「良かった。何かあったら、連絡してください。」 「ああ、分かった。」 「今の、何ですかね?」 「あの方向は、大菩薩未来研究所のあたりだな。」 「大菩薩未来研究所?」 「新型のロボットとか作ってるところだよ。」 「そういうところがあるんですか。」 「あそこは、時々爆発するんだよ。でも、今のは凄かったなあ。」 龍次は、ナビゲーターを覗き込んだ。 「大菩薩未来研究所…、これかあぁ。」 あっちこっちから、頭脳警察<パンタ>のサイレンが鳴り始めた。 「…事件かな?」 1台のパンタが、龍次と農民の前で止まった。 一人の警官が出てきた。 農民に声を掛けた。 「近くの方ですか?」 「ああ、そうだよ。」 次に、警官は龍次に声を掛けた。 「近くの方ですか?」 龍次は、直ぐに答えた。 「いいえ、横浜です。」 さっきのパンタの警官ではなかった。 「新日本赤軍の連中がうろついています。気をつけてください。変な連中を見たら通報してください。」 「あっ、はい。」 龍次は素直に返事をした。 警官は、一枚の写真を見せた。 「新日本赤軍の最高幹部、由井正雪丸(ゆいしょうせつまる)です。見ませんでしたか?」 龍次は覗き込んだ。 「…いいえ。」 「それらしき人物を見たら、通報してください。よろしくおねがいします。」 「はい。」 警官は、同じように農民にも写真を見せた。 「新日本赤軍の最高幹部、由井正雪丸(ゆいしょうせつまる)です。見ませんでしたか?」 農民は、間を置いて答えた。 「いやぁ、見たことないなあ。」 「それらしき人物を見たら、通報してください。よろしくおねがいします。」 「分かった。直ぐに通報する。」 「ご協力、ありがとございます。」 警官は、龍次と農民に軽く頭を下げると、パンタに戻った。サイレンを鳴らしながら、大菩薩未来研究所の方向に走って行った。 龍次が農民に声を掛けた。 「案山子(かかし)、まだ、どこかに立てに行くんですか?」 「今日は、ぶっそうだから、もう止めとくよ。」 「それがいいですね。」 「明日にするよ。おまえさんも早く帰ったほうがええぞ。」 「そうですね、」 「じゃあ、気をつけてな。」 「じゃあ。」 龍次は、軽く手を振ると、国道に向かって去って行った。 農民は、上着の内ポケットから携帯電話を取り出した。黒煙を上げて炎上する大菩薩未来研究所を撮影した後、電話をかけ話し出した。 「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー、こちら卍根来(まんじねごろ)イレブン…」
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