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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第64回   卍根来イレブン
夕陽に染まる茜色の富士山を見ながら、龍次の目は潤んでいた。
「綺麗な景色だなあ・・」
そこには、なぜか生きている実感があった。
「きっと、この自然が、僕を素直にさせているんだなあ…」
風が草花を揺らしていた。
「我、泣き濡れて、風とたわむる…、いいねえ〜!」
龍次は自分で自分を褒めていた。いつものように、センチメンタルで時々コケティッシュな龍次であった。
龍次は、歌いだした。
「ろ〜れん、ろ〜〜れん、ろ〜れぇん〜♪」
遠くの方で、爆発音があった。龍次は、びっくりしてプリウスを止めた。
「なんだ!?」
爆発音があった方向を見ると、黒い煙が上がっていた。
「何事だ?」
農民が、トラクターに乗ってやってきた。プリウスの横で止まった。
トラクターの荷台には、ハイテク案山子(かかし)が二本積んであった。農民をよく見ると、注文した客だった。
龍次は、窓ガラスを開けた。
「いやあ、さっきはどうも。」
「案山子(かかし)を立てて来たんだよ。」
「そうなんですか。」
「うまく作動してたよ。」
「良かった。何かあったら、連絡してください。」
「ああ、分かった。」
「今の、何ですかね?」
「あの方向は、大菩薩未来研究所のあたりだな。」
「大菩薩未来研究所?」
「新型のロボットとか作ってるところだよ。」
「そういうところがあるんですか。」
「あそこは、時々爆発するんだよ。でも、今のは凄かったなあ。」
龍次は、ナビゲーターを覗き込んだ。
「大菩薩未来研究所…、これかあぁ。」
あっちこっちから、頭脳警察<パンタ>のサイレンが鳴り始めた。
「…事件かな?」
1台のパンタが、龍次と農民の前で止まった。
一人の警官が出てきた。
農民に声を掛けた。
「近くの方ですか?」
「ああ、そうだよ。」
次に、警官は龍次に声を掛けた。
「近くの方ですか?」
龍次は、直ぐに答えた。
「いいえ、横浜です。」
さっきのパンタの警官ではなかった。
「新日本赤軍の連中がうろついています。気をつけてください。変な連中を見たら通報してください。」
「あっ、はい。」
龍次は素直に返事をした。
警官は、一枚の写真を見せた。
「新日本赤軍の最高幹部、由井正雪丸(ゆいしょうせつまる)です。見ませんでしたか?」
龍次は覗き込んだ。
「…いいえ。」
「それらしき人物を見たら、通報してください。よろしくおねがいします。」
「はい。」
警官は、同じように農民にも写真を見せた。
「新日本赤軍の最高幹部、由井正雪丸(ゆいしょうせつまる)です。見ませんでしたか?」
農民は、間を置いて答えた。
「いやぁ、見たことないなあ。」
「それらしき人物を見たら、通報してください。よろしくおねがいします。」
「分かった。直ぐに通報する。」
「ご協力、ありがとございます。」
警官は、龍次と農民に軽く頭を下げると、パンタに戻った。サイレンを鳴らしながら、大菩薩未来研究所の方向に走って行った。
龍次が農民に声を掛けた。
「案山子(かかし)、まだ、どこかに立てに行くんですか?」
「今日は、ぶっそうだから、もう止めとくよ。」
「それがいいですね。」
「明日にするよ。おまえさんも早く帰ったほうがええぞ。」
「そうですね、」
「じゃあ、気をつけてな。」
「じゃあ。」
龍次は、軽く手を振ると、国道に向かって去って行った。
農民は、上着の内ポケットから携帯電話を取り出した。黒煙を上げて炎上する大菩薩未来研究所を撮影した後、電話をかけ話し出した。
「チェックメイトキングツー、チェックメイトキングツー、こちら卍根来(まんじねごろ)イレブン…」


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