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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第63回   新日本赤軍
警官は、頭を少し下げながら、身分証明カードを龍次に返した。
「保土ヶ谷龍次さんって、ニート革命軍最高幹部の人と同じ名前ですねえ。漢字も同じなんですねえ。」
「そうなんですよ。時々尋ねられるんですよ。」
「そうでしょうね。」
もう一人の警官は、落ちる夕陽を見ていた。
「暗くなると、熊や猪(いのしし)が出てきますので、早く帰ったほうがいいですよ。」
龍次は、素直に答えた。
「そうします。」
「あっ、そうだ。変な連中を見ませんでしたか?」
「変な連中?」
「新日本赤軍が、大菩薩峠に入ったらしいんです。気をつけてください。」
「新日本赤軍…、ほんとうですか?」
「はい。マシンンガンなどの武器を持っていますので、すぐに分かります。」
「怖いなあ。すぐに帰ります。」
「道、分かりますか。途中まで先導しましょうか?」
「大丈夫です。」
「そうですか、じゃあ気をつけて。」
二人の警官は、頭を下げると、すたすたとパンタに戻って行った。
「こんなところに、長居は無用だ。」
龍次も、二人を追いかえるように、愛車のプリウスに戻って行った。
プリウスに乗ると、すっかり自然薯(じねんじょ)のことは忘れていた。アクセルを踏んだ。
薬莢(やっきょう)のことを思い出していた。
「あの薬莢(やっきょう)、新しかったなあ…」
笹で覆われ視界を遮る樹林のない峠からは、夕陽に染まる富士山が見えていた。
「綺麗だなあ。」
<右・福ちゃん荘>の看板が前方にあった。
「福ちゃん荘か、福ちゃん荘と言えば、赤軍派の大多数が武装訓練中に、機動隊に包囲されて逮捕されたところだなあ。」
チェ・ゲバラに傾倒し、世界同時革命に共感し、南米ボリビアでのゲリラ戦で死んだ友人のことを、龍次は思い出していた。
「誰からも搾取(さくしゅ)されない新しい自由を求めて、新しい平等を求めて、あいつは死んで行った…」
ひゅーひゅーと、木枯らし紋次郎のようなアナーキーな風が吹いていた。
「あいつは、人間らしく生きて死ぬ。って言ってたけど、人間らしくって、どういうことだろう…」
龍次は、答えのないまま生きている自分を感じていた。
「風のように生きればいいんだよ。どうせ、どうやっても最後には死ぬんだから。」
笹の葉が、ざわざわと歓声をあげていた。
「あの頃の人々は、太陽のように熱かったなあ。」
夕陽が、大菩薩峠の雲を真っ赤に染めていた。
「新赤軍か…、なんであいつら、こんなところに来たんだろう?」
三叉路になっていたので、龍次はプリウスを止めて、ナビゲーターで道を確認した。右には、畑が広がっていた。
「左だな…」
 ダダダダダダダ〜〜!
突然、激しい銃声が聞こえた。
「なっ、なんだ!?」
龍次は、銃声の聞こえた方向と逆の方向に、プリウスを急発進させた。
「新日本赤軍か!?」
二百メートルほど走ると減速した。
「あの銃声は、ハイテク案山子(かかし)だったかな?」
龍次は、すっかり臆病になっていた。
「早く、帰ろう!」
前方から、頭脳警察のパトロールカー<パンタ>が、赤色灯を回転させ光らせながらやって来た。
「さっきのパンタかなあ?」

 え〜〜 こちら頭脳警察〜 頭脳警察〜
   社会に迷惑をかける 僻み根性の邪悪なる人間の屑 くずがありましたら
  直ちに ただしに回収にまいりまぁ〜す

「社会のために闘って死ぬ奴は、自殺と同じだなあ。」
龍次は、元旦に獄中で自殺した、日本赤軍の森恒夫のことを思い出していた。
「二十五歳くらいの若さで、馬鹿な奴だ…、俺は今、わが身だけが可愛い…」

龍次は、友人の好きだった吉田拓郎の<我が身可愛いく>を歌っていた。

 生きるか死ぬかの瀬戸際でさえ〜 へれへら笑ってぇいたかも知れぬ〜♪
   笑えば煮えくる〜 腹の虫も〜 たまには憩うというものだから〜♪
  ここにいては駄目だ〜 このままでは駄目だ 鋭い刃をひとふりせねば〜♪
 信じるものなど語るに落ちて〜 誇りを持てよとくちばし青く〜♪
  醒めた顔など流行の歌で胸いっぱいだ〜♪
   やるかやられるか 噛みつくまでだ〜♪
 邪魔だ そこのけ〜 おいらが通る〜♪
   まやかし笑顔は〜 勝手につるぅめぇ〜♪
  毒を食らわば〜 共に倒ぉれ〜 正義のためなど言葉の遊び〜♪
 我慢が出来ぬ〜 もう我慢がならぬ〜 冷たい雨を降らせてくれる〜♪



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