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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第62回   自然薯の龍次
その頃、自然薯(じねんじょ)の龍次は、大菩薩峠のどこかで、熊避けにラジオを鳴らしながら自然薯(じねんじょ)を掘っていた。
「もう少しなんだけどなあ・・」
山芋掘りの道具を手に、必死に掘っていた。
「よ〜〜し、もう少しだ!じねんじょ、じねんじょ!」
夕陽が沈み込もうとしていた。闇が迫っていた。
「やっばいなあ・・」
龍次は、掘るのを止めた。
「引き抜いてみるか。」
思いっきり引き抜いた。自然薯(じねんじょ)は途中で折れた。
「あ〜〜あ、やっちゃった!」
自然薯(じねんじょ)は、約三十センチのところで折れてしまった。
「しょうがない。」
今まで、林の中を我が侭な子供のように吹いていた風が、孤独な冷たい風に感じて、身をすくめた。
上空を見ると、高層のうろこ雲の下を、ひとつの逸(はぐ)れ雲が、風に泳いでいた。
「やっぱ、この辺りは標高が高いから、陽が落ちると冷えるなあ。」
リスのような小動物が、近くを素早く駆けて行った。
「なんだ、今のは?」
林の中から、ガサガサっと音がした。龍次は、用心深く周りを見回した。
「うん、何かいるのかな?」
何もいなかった。
少し傾斜した山肌を、夕陽が差し込んでいた。足元に、その夕陽に照らされ、光るものがあった。
「うん、何だ?」
龍次は、山芋掘り道具を土に突き刺して、右手で拾った。
「何だろう?」
親指くらいのものだった。使い終わった口紅ように、中は空洞になっていた。
「ひょっとすると、銃弾の薬莢(やっきょう)?」

 え〜〜 こちら頭脳警察〜 頭脳警察〜
   社会や人々に迷惑をかける 僻み根性の人間の屑 くずがありましたら
  直ちに ただちに回収にまいりまぁ〜す

「頭脳警察のパンタだ!」
茂みの間から、頭脳警察のパトロールカー<パンタ>が見えていた。
パンタは、龍次のプリウスの前で止まった。
「なんでこんなところに、パンタが?」
二人の警官が降りてきて、龍次のプリウスの中を覗いていた。
覗き終わると、龍次の方にやって来るのが見えた。龍次は、慌てて薬莢(やっきょう)を草むらに捨てた。
二人の警官は、すたすたと無言でやって来て、龍次の前で止まった。
前の警官が尋ねた。
「こんなところで、何してるんですか?」
「いやあ、自然薯(じねんじょ)を取ってたんですよ。」
龍次は、手に持っている自然薯(じねんじょ)を見せた。
「自然薯(じねんじょ)ですかあ。この辺りの方ですか?」
「いいえ、横浜です。」
「横浜から、わざわざ。」
「ええ。ここの自然薯(じねんじょ)は特別なんですよ。」
「何が特別なんですか?」
「味です。美味しいんですよ。」
「そうなんですか。それは知らなかった。今日は、お休みですか?」
「ええ、内職で休みを取りました。」
「内職?」
「内職で、ハイテク案山子(かかし)を作っているんです。」
「ハイテク案山子(かかし)?」
「時々、畑に立っているやつですよ。マシンガンを持って。」
「あ〜〜、あれですか。売ってるんですか?」
「ええ、今日は十本持って来たんですよ。まとめて買ってくれた人がいまして。」
「ああ、届けに来たんですか、ここまで?」
「そうなんです。」
「いい内職ですねえ。」
「来たついでに、自然薯(じねんじょ)をと思いましてね。」
「そうだったんですか。」
「僕は、迷惑をかける僻み根性の邪悪なる人間の屑、なんかじゃありませんよ!」
「…そうですね。目を見れば分かります。」
後ろの警官が、出てきた。
「失礼ですが、何か身分証明カードみたいなもの持っていますか?」
「ええ、ありますよ。」
龍次は、上着の内ポケットから、身分証明カードを出した。
「どうぞ。」
尋ねた警官に手渡した。警官は、携帯の身分証明カードモニターに差し込んだ。
「国際連合プラントエンジニア…、チーフ・テクノロジー・オフィサー…」
「日本語で言うと、最高技術責任者です。」
「国際連合の方ですか。失礼しました!」
二人の警官は、敬礼をした。龍次は、ほっとして微笑んでいた。



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