「日本政府は、二十五年ほど前に、才能のある人々を集め、クローン人間を作ったらしいんです。」 「え〜〜、本当ですか!?」 「ご存知のように、人間のクローンは、国連憲章規約で禁止されています。」 「そうですね。」 「日本の政府マザーコンピュータは、極秘裏にクローン人間研究を行っていたらしんです。」 「まさか・・」 「ほんとうです。ノーベル賞を受賞した学者や、特殊能力のある人、有名アスリート、芸能人や歌手が目撃されているんです。」 「日本国内でですか?」 「はい。日本国外でも目撃されています。」 「じゃあ、ショーケンも?」 「その可能性は、大ですね。」 「ショーケンのクローン…」 「その中には、逃亡したクローンもいるそうです。」 「逃亡?」 「自由を求めて。」 「自由を求めて?」 「彼らが住んでいた施設には、本当の自由はありませんでしたから。おそらく、実験動物扱いだったんでしょうね。」 「じゃあ、ショーケンも逃亡クローン?」 「おそらく、そうです。」 「その施設は、どこにあるんですか?」 「大菩薩峠の辺りです。でも、今はありません。」 「今はない?」 「ここに来る前に調べたんですが、やはりありませんでした。普通の牧場になっていました。」 「その牧場に、以前はあったんですか?」 「あったみたいです。」 福之助は、黙って聞いていた。 夕陽が窓から射し込み、室内を赤く染めていた。 アニーが咳をした。 「アニーさん、大丈夫?」 アニーは、自分の額に右手の甲を当てた。 「まだ少し熱があるみたい…」 「寝てたほうがいいですよ。」 「そうですね。」 アニーは、ベッドに戻り、静かに両足を入れ、横たわった。 姉さんは、何かに誘われるように、窓際に立っていた。 「わぁ〜〜、夕陽が綺麗!」 福之助が、姉さんのそばに歩み寄って来た。 「人間はいいなあ。」 「何が?」 「感情があって。」 姉さんは、福之助の顔を見た。なぜか、感情のない福之助の顔が、悲しそうな表情に見えた。ロボットの福之助の目は、冷たい色のブルーだった。 「人間の感情って、きっと、あの夕陽のように、真っ赤に燃えているんでしょうねえ。」 「…ああ、そうだよ。」 福之助は、懸命に夕陽に染まる山々を眺めていた。 「…今度生まれるときには、人間になりたいなあ。」 「おまえ、悲しいことを言わないでよ。」 姉さんは、一粒の涙を流した。目は潤んでいた。 アニーも、ベッドの上で涙を流していた。 夕陽が、みんなを真っ赤に染めていた。高野山の風が、不憫な子供を撫でるように山々の木々を揺らしていた。 「クローンでもいいから、人間になりたいなあ。涙を流してみたいなあ。」 姉さんは、耐え切れずに泣き出した。 「おまえさ〜、悲しいこと言わないでよ〜!」 アニーも本気で泣き出した。 「わ〜〜〜ん、悲しいよ〜〜!」
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