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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第61回   人間になりたい
「日本政府は、二十五年ほど前に、才能のある人々を集め、クローン人間を作ったらしいんです。」
「え〜〜、本当ですか!?」
「ご存知のように、人間のクローンは、国連憲章規約で禁止されています。」
「そうですね。」
「日本の政府マザーコンピュータは、極秘裏にクローン人間研究を行っていたらしんです。」
「まさか・・」
「ほんとうです。ノーベル賞を受賞した学者や、特殊能力のある人、有名アスリート、芸能人や歌手が目撃されているんです。」
「日本国内でですか?」
「はい。日本国外でも目撃されています。」
「じゃあ、ショーケンも?」
「その可能性は、大ですね。」
「ショーケンのクローン…」
「その中には、逃亡したクローンもいるそうです。」
「逃亡?」
「自由を求めて。」
「自由を求めて?」
「彼らが住んでいた施設には、本当の自由はありませんでしたから。おそらく、実験動物扱いだったんでしょうね。」
「じゃあ、ショーケンも逃亡クローン?」
「おそらく、そうです。」
「その施設は、どこにあるんですか?」
「大菩薩峠の辺りです。でも、今はありません。」
「今はない?」
「ここに来る前に調べたんですが、やはりありませんでした。普通の牧場になっていました。」
「その牧場に、以前はあったんですか?」
「あったみたいです。」
福之助は、黙って聞いていた。
夕陽が窓から射し込み、室内を赤く染めていた。
アニーが咳をした。
「アニーさん、大丈夫?」
アニーは、自分の額に右手の甲を当てた。
「まだ少し熱があるみたい…」
「寝てたほうがいいですよ。」
「そうですね。」
アニーは、ベッドに戻り、静かに両足を入れ、横たわった。
姉さんは、何かに誘われるように、窓際に立っていた。
「わぁ〜〜、夕陽が綺麗!」
福之助が、姉さんのそばに歩み寄って来た。
「人間はいいなあ。」
「何が?」
「感情があって。」
姉さんは、福之助の顔を見た。なぜか、感情のない福之助の顔が、悲しそうな表情に見えた。ロボットの福之助の目は、冷たい色のブルーだった。
「人間の感情って、きっと、あの夕陽のように、真っ赤に燃えているんでしょうねえ。」
「…ああ、そうだよ。」
福之助は、懸命に夕陽に染まる山々を眺めていた。
「…今度生まれるときには、人間になりたいなあ。」
「おまえ、悲しいことを言わないでよ。」
姉さんは、一粒の涙を流した。目は潤んでいた。
アニーも、ベッドの上で涙を流していた。
夕陽が、みんなを真っ赤に染めていた。高野山の風が、不憫な子供を撫でるように山々の木々を揺らしていた。
「クローンでもいいから、人間になりたいなあ。涙を流してみたいなあ。」
姉さんは、耐え切れずに泣き出した。
「おまえさ〜、悲しいこと言わないでよ〜!」
アニーも本気で泣き出した。
「わ〜〜〜ん、悲しいよ〜〜!」


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