「アキラ、電話をするときには、発信元が分からないように、コレクトコールを使えよ。」 「分かった。」 アキラは、カレーパンを食べながら、携帯電話でインターネットのニュースを見ていた。 「兄貴、来月から三百円だってよ。ガソリンの値段。おっそろし〜。」 「そりゃあ、大変だ。」 「貧乏人は乗れないね。」 「これからは、貧乏人は馬車だな。」 「ばしゃ?」 「馬とか、牛とか。」 「でも、そういうのも、のんびりしてていいかもね。」 「そうだな。」 ショーケンは窓際に座り、景色を見ていた。 「みんな、自給自足にすればいいんだよ。」 「じきゅうじそくって、何?」 「自給自足だよ〜。そんなことも知らねえのかよお。」 「学校では、そんなの教わんなかったよ。」 「聞いてなかっただけだろう。」 「そうなのかなあ。」 「自給自足ってのはなあ・・自分で作って、自分で食べんだよ。」 「そうか。じゃあ、俺毎日やってるよ。なあんだ、そんなことか。」 「おまえには、馬車のほうがいいかもな。」 「じゃあ兄貴、馬車買ってタクシーやろうよ。年寄りは喜ぶよ。」 「馬車なんて、どこにも売ってねえよ。」 「兄貴、さっきから何食べてんの?」 「これ?スモークチーズだよ。」 「おいしいの?」 「おいしいよ。」 「やっぱインテリは、しゃれたの食べんだね。」 四十分ほどで、高野山に入った。 「アキラ、ここで降りるぞ。」 「ここでいいの。」 「ああ。」 二人は、金剛峯寺(こんごうぶじ)前というところで降りた。宇宙刑事アニーは降りなかった。 「あの女、終点まで行くのかなあ。」 「そんなこと、知らねえよ。」 アキラは腕時計を見た。 「兄貴、二時四十五分だ。」 「けっこう早かったな。」 「ここまで来れば、大丈夫だね。」 「やつらはここには入れねえからな。」 「ざまあみろってんだ。」 目の前には、黄金に輝く大きな寺が見えていた。 「お寺に行っても、しょうがねえしな。」 「そうだねえ。俺たちには関係ねえ世界だね。」 高野山(こうやさん)は山ではなく、和歌山県北部、周囲を千メートル級の山々に囲まれた標高約八百メートルの台地の名称だった。百以上の寺があり、平安の時代から数万の僧兵によって護られ、聖地になっていてた。 そこは、独立した行政区になっていて、独自の警察機構があり、頭脳警察も入れない場所になっていた。 「兄貴〜、高野山コーラだって!」 コーラの好きなアキラが、自動販売機の前で足を止めた。 「やっぱ、違うねえ。横須賀とは。」 「まったく、景色が違うな。」 「景色じゃなくって、自動販売機。」 「自動販売機は、同なじだろう。」 「横須賀には、高野山コーラなんてないじゃん。」 「どうせ、味は同じだよ。」 「飲んでみなきゃあ、分かんないじゃん。」 後ろから声がした。 「それ、お茶の味のコーラだよ。けっこうおいしかったよ。」 アキラは、びっくりして振り向いた。高校生くらいの少女が、赤い折り畳み自転車に乗って止まっていた。 「あんたたち、横須賀から来たの。」 「ああ、そうだよ。」 「あたし、鎌倉から来たの。」 「鎌倉って、逗子の隣の鎌倉?」 「そうよ。」 少女は一人だった。 「こんなとこで、何やってるのかな?」 「遊びに来たのよ。」 「ひとりで?」 「そう。」 ショーケンが口を挟んだ。 「ひょっとしたら、家出じゃねえのかぁ?」 「そう、家出少女A。あったり〜〜〜!」
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