20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第59回   箸名人
「姉さん。龍次たちがやって来ました。」
アニーが、双眼鏡を二つ持ってきた。一つを姉さんに渡した。
「あ、どうも。」
「これだけ離れてると、カーテンをもう少し開けても大丈夫じゃないかしら。」
「そうですね。福之助、もう少しカーテンを開けて。」
「はい。この窓ガラスは、昼間は外から中は見えないんですよ。」
「ああ、そうなの。でも念の為に、これでいいよ。」
「はい。」
福之助の目は、目玉を出して望遠になっていた。
「あっ、昨日コンビニで逢ったアキラさんだ。」
「アキラさんって?」
「夏の花火大会のときに逢った人です。」
「野球帽の人?」
「そうです。龍次の隣にいるやつ、なんだかショーケンに似てますねえ。」
「ショーケン?」
アニーは、しゃがんで見ていた。
「ほんとだ、似てる。」
福之助の右足を、左腕で巻きつけて見ていた。
「福之助さんって、スベスベ肌ねぇえ。」
「アルミの肌です。」
「とっても、気持ちいいわ。」
「ほんとですかあ?感激しちゃうなあ。」
姉さんは、福之助の後ろで見ていた。
「似てるねえ。ありゃあ、まるっきしショーケンだよ。」
「そうですねえ…」
「あ〜、木が邪魔して、見えなくなっちゃった。」
「あの木、邪魔ですねえ。」
「しょうがないよ。あの丘の上の天文台みたいな建物は何なんだい?」
その質問に答えたのは、アニーだった。
「あれは、天文台です。」
「やっぱり、天文台なんですか。」
「高野山は、星の美しいところとしても有名なんですよ。」
カランカランと、真鍮(しんちゅう)のドアベルが鳴った。男の声がした。
『花菱(はなびし)で〜す!』
「あっ、出前だわ。」
福之助が出ようとした。姉さんが腕を伸ばして止めた。
「おまえじゃあ、びっくりするからいいよ。」
姉さんが出た。
出前の男は、中に入って来て、テーブルの上に注文したものを並べた。
姉さんが、代金を支払うと、
『まいどありがとうございま〜〜す。』と言って、ドアを静かに閉めて、出て行った。
「さあ、食べましょう。福之助、カーテン閉めて、もういいわ。」
「はい。」
「カレースープを持ってきて。」
「はい。」
「おまえは、座って充電でもしときな。」
「はい。」
アニーが、聖母の眼差しで福之助を見た。
「福之助さんと食べられなくて、残念だわぁ。」
「だったら、隣に座って食べるふりをしましょうか?」
「それはいいわね。」
福之助は、アニーの横に座った。アニーは、モナリザのように微笑んだ。福之助は、アニーの十八番(おはこ)のウインクで答えた。
姉さんは、福之助の前に座った。
「なんだい、そのウインク。気持ち悪いなあ。」
アニーは、福之助を見ながら小さな笑いを漏らしていた。
「家族団らんで食べましょう。」
「姉さん、皿とスプーンだけください。」
姉さんは、黙ってテーブルの上の皿とスプーンを取って、福之助の前に置いた。
「はいよ。」
「どうも、ありがとう。」
姉さんとアニーは、「いただきます。」と言った後、食事を始めた。
姉さんは、目の前の料理を眺めた。
「これが、花御堂(はなびどう)弁当か…」
姉さんは、食前酒を一口飲み込んだ。
「うん、なんだこの味は?」
「山桃の食前酒と書いてあります。」
「山桃…」
姉さんは、料理のパンフレットを見た。
「味御飯・四季煮合せ盛込み・茄子の田楽・果物・ゴマ豆腐・味噌汁・山桃の食前酒…」
「このゴマ豆腐、とってもおいしいわ。」
「花菱は天皇陛下が高野山に来たときに、精進料理をおもてなししたと書いてあるわ。」
福之助が、スプーンを持ち食べるふりをしながら答えた。
「そうなんですか。」
姉さんは、ひとくち、ふたくちと箸を移動させていた。
福之助は、感心した様子で姉さんを見ていた。
「姉さんは、いつ見ても箸名人だなあ。」
「この、茄子の田楽はいけるねえ〜。」
福之助は、好奇の眼差しで見ていた。
「それも、紅流(くれないりゅう)ですか?」
姉さんは、その問いかけには答えず、黙々と食べていた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 32722