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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第56回   そっくり人間
金剛峯寺境内(こんごうぶじけいだい)の大塔の鐘、通称高野四郎の鐘の音が、午後五時を告げていた。
白・黒・茶色の体に灰色の羽を備えた、ダンディな山雀(やまがら)が寝床の山に向かっていた。
アキラは、腕時計を見た。
「兄貴、五時だ。」
「やっと終わったな。」
「そうだね。」
「龍次が、今日は転軸山公園(てんじくさんこうえん)に集合って言ってたぞ。」
「ああ、そうなの。」
消防署の方から、赤い自転車に乗った少女が叫びながらやってきた。
「ショーケンさ〜〜ん!」
昨日のリスカの女子高生、歩(あゆみ)だった。
ショーケンは、軽く手を振った。アキラは、横に大きくゆっくりと手を振っていた。
「よ〜〜〜お、歩(あゆみ)ちゃ〜ん!」
少女の後方を、婦人が電動自転車を漕いでいた。
歩(あゆみ)は、ショーケンの前で止まった。
「お母さんを連れてきたの。」
電動自転車も、ショーケンの前で止まった。にこにこしながら、婦人が降りた。
「きゃあ〜〜、ほんとだ〜〜、ショーケンだわ〜!」
ショーケンは、慌てて返事をした。
「ショーケンと言っても、偽者なんですよ。」
「偽者?」
「なんというか、本物なんですけど、偽者なんです。」
「…どういうことかしら?」
「コピーなんです。」
「コピー?」
アキラが割って入った。
「兄貴は、ショーケンのクローンなんです。」
「クローン…」
「つまり、ショーケンの細胞から生まれた、コピー人間。」
「コピー人間?まさか!」
歩(あゆみ)ちゃんが、横から口を出した。
「お母さん、クローンがよく分かってないんですよ。」
歩(あゆみ)の母は、首を傾げていた。
「どういうこと?声も話し方も、ショーケンよ。」
「ほら見てよ、お母さん。本物が、こんなに若いわけないでしょう?」
「髪も長いし、そう言えば、そうだわね…」
「だから、コピーなの。分かった?」
「そうなの?でも、昔のショーケンにそっくりだわ。」
「だって、コピーなんだもん。」
「コピーってことは、歌とかの才能もあるの?」
「あるわ。昨日歌ったもん。ねえ、アキラさん!」
「兄貴は、何から何まで、そっくりなんですよ。ショーケンなんです。」
「あなたは、傷だらけの天使のアキラさんに似てるけれど、よく見ると違うわねえ。」
「俺は、クローンじゃないよ。ただの、そっくり人間。」
「ああ、そうなんだ。」
歩(あゆみ)の母は、ショーケンをまじまじと見ていた。
「…どうでもいいわ。この人、ほんもののショーケンだわ〜〜!」
ショーケンは微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「シャウトしてくれまっす?」
「シャウト?」
「ゥオ〜とか、ァウ〜とか。得意のハスキーな裏声で。」
ショーケンは、アクションを交えて応じた。
「ゥオ〜〜、カモン!」
「きゃ〜〜、ショーケ〜ン〜〜!」
数人の通行人が、その甲高い婦人の声にびっくりして振り向いた。
「あっ、そうだそうだ!歩(あゆみ)ちゃん、無花果饅頭(いちじくまんじゅう)を差し上げて。」
「はい、お母さん。」
歩(あゆみ)ちゃんは、電動自転車の前籠から、紙袋を取り出した。
「はい。」
歩(あゆみ)ちゃんの母は、それを受け取ると、ショーケンに渡した。
「ショーケンの好物、無花果(いちじく)を饅頭にしたの、食べて〜。」
そう早口で言うと、ショーケンに渡した。
「無花果(いちじく)の饅頭?」
「ええ、今朝作ったの。食べて。」
「無花果(いちじく)の饅頭なんて、こんなの初めてだなあ…」
「好きなのよね、無花果(いちじく)?」
「ええ、まあ。」
「一口食べて見て。口に合うかしら?」
歩(あゆみ)ちゃんの母は、袋から一個取り出して、ショーケンに渡した。
ショーケンは、黙って食べた。
「うん、おいしい!」
「きゃ〜〜ぁ、おいしいだって!」
その甲高い婦人の声にびっくりして、木の枝に止まっていたカラスが飛び去った。


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