龍次は、青年の目を注意深く追っていた。 「君、抗うつ剤を飲んでるね。」 「…はい。」 「君みたいな人が、時々来るんだよ。」 「そうなんですか・・」 「うつ病は病気じゃない。」 「…病気じゃないんですか?」 「そう。心が疲れているだけなんだよ。」 「…」 「帰れとは言わないよ。ここで、心を休ませてから帰りなさい。ゆっくりと休むと、必ず治る。」 「はい。」 「身体だけを休ませても、心は治らないよ。」 「はい。」 「リラックスして、自然と調和して働けば、この大地と緑の自然が治してくれる。」 「はい。」 「動物が怪我をしたときに穴にこもるように、治るまで、大地に引きこもっていれば、必ず治る。」 「はい!」 「治ってからのことは、改めて君が決めなさい。」 「はい。」 青年は、涙を流していた。 「われわれは、君を阻害したりはしない。安心しなさい。」 「はい。」 「ところで、伊賀十兵衛さん。あなたは、忍術の伊賀の人なのかな?」 「はい、そうです。伊賀で生まれ育ちました。先祖は、伊賀崎道順(いがのさき どうじゅん)という忍者です。」 「いがのさき どうじゅん。ほ〜〜、それは凄いや。で、君は出来るの、忍術は?」 「はい。少しは出来ます。」 「ほ〜〜、どういうの?」 「木の葉隠れ、とか。気合い縛りの術とか。」 「このはがくれ…、木の葉に隠れるやつですね。本物は見たことないけど、漫画や映画ではありますよ。あれでしょう。」 「はい。」 「きあいしばりの術って言うのは?」 「気合で、鳥などを落とす術です。」 「気合で、飛んでる鳥を落とすんですか?」 「はい。気合で鳥の動きを止めて、落とします。」 「ほ〜〜、それは面白い!無人偵察機とかは落とせますか?」 「それは、ちょっと。生物以外は無理です。」 「人間は?」 「動物や人間も、動きを止めることができます。」 「気合でですか?」 「はい、今で言う瞬間催眠みたいなものです。」 「ほ〜〜、面白い!じゃあ、病気が治ったら見せてくれませんか。」 「はい、一生懸命に治します!」 「一生懸命に治さなくっていいですよ、大地のリズムに合わせて治してください。」 「はい!」 龍次は、ニート特攻隊の隊長、鶴丸隼人に命じた。 「鶴さん、頼む!」 鶴丸隼人は、力強く返事をした。 「はい!」 隼人は、青年の目を見た。 「じゃあ、わたしたちと一緒にやりましょう。」 「はい!」 隼人と青年は、ショーケンとアキらの前を通り過ぎようとした。隼人は、慌ててショーケンの前で立ち止まった。 ショーケンに頭を下げた後、アキラに頭を下げた。 「ショーケンさん、アキラさん、はじめまして。わたし、鶴丸隼人といいます。どうぞよろしく!」 ショーケンもペコリと頭を下げた。 「よろしく。」 アキラもペコリと頭を下げた。 「よろしくぅ!」 青年も、深く頭を下げた。 「よろしくおねがいします。」 ショーケンは軽く答えた。 「よろしく。」 アキラも軽く答えた。 「よろしくぅ!」 隼人と青年は、霊宝館の方に向かって行った。 「兄貴、あいつ、兄貴のこと知らなかったみたいだねえ。」 「そうだなあ。そんなことよりも、アキラ。」 「なんだよ?」 「あいつ、うつ病だよ。」 「なんで分かんの?」 「目つきで分かるよ。」 龍次がやって来た。 「ショーケンさん、来週の日曜日に、三宝院で中秋の名月コンサートがあるんですよ。」 龍次は、ショーケンにパンフレットを渡した。
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