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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第54回   伊賀十兵衛
大師教会は、全国五千七百ヶ所に及ぶ大師教会の本部であった。
香を焚き浄められた教室で、観光客が般若心経(はんにゃしんぎょう)の二百六十二文字を作法に従い姿勢を正して墨で書いていた。
突然、上空から小さなローター音が聞こえてきた。
「兄貴、頭脳警察の無人小型偵察機だ!」
アキラとショーケンは、近くの木の下に逃げ込んだ。
アキラは、上空を見上げていた。
「何を探してんだ?」
「いやな野郎だなあ・・」
龍次が、ゆっくりとやってきた。
「時々、われわれを見に来るんですよ。」
アキラは、木の葉越しに偵察機を見ていた。
「あいつら、何考えてんだ?」
龍次は落ち着いていた。
「もう大丈夫です。行きました。」
アキラは、まだ用心深く空を見ていた。
「ミサイルとかで打ち落としたら、爽快だろうなあ。」
「やつらの思う壺ですよ。」
ショーケンが、からかうように、アキラに言った。
「得意の戦法で、穴熊になって隠れるか?」
女性のニート革命軍隊員が、男を連れてやってきた。
「龍次さん、この方です。」
女性の後ろには、さすらいの風男・ニート特攻隊の鶴丸隼人がいた。
野球帽をかぶり、リュックを背負った青年がやって来た。龍次の前で、深く頭を下げた。
「はじめまして。伊賀十兵衛と申します。京都からまいりました。先月まで、京都のロボット工場で働いていました。職業は、エンジニアです。」
「保土ヶ谷龍次です。どうして、ここに来たんですか?」
「人間になりたくって、ここに来ました。」
「人間に?」
「わたしは、機械の奴隷であることに気がついたのです。」
「奴隷?」
ショーケンとアキラは目を合わせた。
「俺達は邪魔だから、あっちに行こう。」
「そうだね。」
二人は、龍次と青年から遠ざかった。近くのベンチに座った。紫色のリンドウの花が、風に揺れていた。
アキラは青年を見ていた。
「あの青年、頭脳警察のスパイじゃないか?」
ショーケンは、煙草に火をつけた。
「そうかも知れないな。」
「伊賀十兵衛だって、名前からして怪しいよ。」
「そうだなあ。」
「京都に、ロボット工場なんかあったかなあ?」
「あんまり聞かないなあ。」
「だろう、やっぱ怪しいなあ。」
「見切ってるんじゃないか。剣豪のように。」
「見切る?」
「達人はな、相手の剣をかわして、本物かどうかを判断するんだよ。」
「そうなの?」
「龍次は、相手の目を注意深く見ながら話してただろう。」
「そうだね。」
「あれは、油断してない剣豪の目だよ。」
「ああ。でも、それって危険だよなあ。」
「極めて、危険だな。」
「龍次は、用心深いのか大胆なのか分んないね。見知らぬ奴に、いきなり会うんだから。」
「大物の器だな。」
「いきなり、刺されるってことも、もしかしたらあるよ。」
「あるかもな。」
「ありゃあ、きっとオー型だよ。」
「オー型?」
「血液型だよ。そう言えば、兄貴もオー型か。」
「ああ。」
「オー型のやることは、用心深いのか大胆なのか、どうも分かんねえなぁ。」
「さっき、女の後ろにいた男、龍次の背後で立ってる男。あいつ只者じゃないぞ。」
「そぉう?」
「ぞくぞくっとした戦慄を感じるんだよ。」
「ふ〜〜ん、確かに、目は鋭いね。」
「あいつ、武術の達人だよ。」
「どうして分かんの?」
「あの立ち方は、何か武術をやってるやつの立ち方だよ。」
「立ち方で分かるんだ?」
「ああ、分かるよ。常に、手か足が瞬時に出る立ち方だからな。」



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