大師教会は、全国五千七百ヶ所に及ぶ大師教会の本部であった。 香を焚き浄められた教室で、観光客が般若心経(はんにゃしんぎょう)の二百六十二文字を作法に従い姿勢を正して墨で書いていた。 突然、上空から小さなローター音が聞こえてきた。 「兄貴、頭脳警察の無人小型偵察機だ!」 アキラとショーケンは、近くの木の下に逃げ込んだ。 アキラは、上空を見上げていた。 「何を探してんだ?」 「いやな野郎だなあ・・」 龍次が、ゆっくりとやってきた。 「時々、われわれを見に来るんですよ。」 アキラは、木の葉越しに偵察機を見ていた。 「あいつら、何考えてんだ?」 龍次は落ち着いていた。 「もう大丈夫です。行きました。」 アキラは、まだ用心深く空を見ていた。 「ミサイルとかで打ち落としたら、爽快だろうなあ。」 「やつらの思う壺ですよ。」 ショーケンが、からかうように、アキラに言った。 「得意の戦法で、穴熊になって隠れるか?」 女性のニート革命軍隊員が、男を連れてやってきた。 「龍次さん、この方です。」 女性の後ろには、さすらいの風男・ニート特攻隊の鶴丸隼人がいた。 野球帽をかぶり、リュックを背負った青年がやって来た。龍次の前で、深く頭を下げた。 「はじめまして。伊賀十兵衛と申します。京都からまいりました。先月まで、京都のロボット工場で働いていました。職業は、エンジニアです。」 「保土ヶ谷龍次です。どうして、ここに来たんですか?」 「人間になりたくって、ここに来ました。」 「人間に?」 「わたしは、機械の奴隷であることに気がついたのです。」 「奴隷?」 ショーケンとアキラは目を合わせた。 「俺達は邪魔だから、あっちに行こう。」 「そうだね。」 二人は、龍次と青年から遠ざかった。近くのベンチに座った。紫色のリンドウの花が、風に揺れていた。 アキラは青年を見ていた。 「あの青年、頭脳警察のスパイじゃないか?」 ショーケンは、煙草に火をつけた。 「そうかも知れないな。」 「伊賀十兵衛だって、名前からして怪しいよ。」 「そうだなあ。」 「京都に、ロボット工場なんかあったかなあ?」 「あんまり聞かないなあ。」 「だろう、やっぱ怪しいなあ。」 「見切ってるんじゃないか。剣豪のように。」 「見切る?」 「達人はな、相手の剣をかわして、本物かどうかを判断するんだよ。」 「そうなの?」 「龍次は、相手の目を注意深く見ながら話してただろう。」 「そうだね。」 「あれは、油断してない剣豪の目だよ。」 「ああ。でも、それって危険だよなあ。」 「極めて、危険だな。」 「龍次は、用心深いのか大胆なのか分んないね。見知らぬ奴に、いきなり会うんだから。」 「大物の器だな。」 「いきなり、刺されるってことも、もしかしたらあるよ。」 「あるかもな。」 「ありゃあ、きっとオー型だよ。」 「オー型?」 「血液型だよ。そう言えば、兄貴もオー型か。」 「ああ。」 「オー型のやることは、用心深いのか大胆なのか、どうも分かんねえなぁ。」 「さっき、女の後ろにいた男、龍次の背後で立ってる男。あいつ只者じゃないぞ。」 「そぉう?」 「ぞくぞくっとした戦慄を感じるんだよ。」 「ふ〜〜ん、確かに、目は鋭いね。」 「あいつ、武術の達人だよ。」 「どうして分かんの?」 「あの立ち方は、何か武術をやってるやつの立ち方だよ。」 「立ち方で分かるんだ?」 「ああ、分かるよ。常に、手か足が瞬時に出る立ち方だからな。」
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