「じゃあ、待ってます。」 姉さんは、携帯電話を切った。 「やっぱり紋次郎だったよ。家出したんだって。あけみさんも来るって。」 福之助は、喜んでいた。 「ほんとうですか?」 「明日の三時ごろに、来るって言ってたよ。」 「そうですか。あ〜〜あ、どうしましょう!?」 「な〜にが、どうしましょうだよ?」 「すいません、独り言です。」 「変なやつだなあぁ。」 会話を聞いていたアニーが質問した。 「あけみさんって?」 姉さんが答えた。 「福之助のメンテナンスをやってる方なんですけど、メンテナンスしているロボットが家出したんです。」 「家出って、高野山(こうやさん)にですか?」 「はい、紋次郎という、新型のロボットなんですけど。」 「紋次郎…」 「はい。」 「いろいろと大変ですねえ。」 窓の外では、木々の葉や草花が、風にそよいでいた。 「少し風がでてきたみたいだねえ。」 「そうですねえ。」 絵を描いている男の近くを、2匹のウサギが競い合うように飛び跳ねて行った。 「ウサギだわ!」 「今のウサギ、よく似てましたねえ。」 「そうかい?」 「ええ、そっくりでしたよ。色も形も。」 「動物は、同時に沢山産むからね。似てるのもいるだろう。」 「でも、あれは似すぎですよ。」 「そうかなあ。」 「わたしの回路の、パターン認識では、99%同じ物体です。」 「おまえの回路は、旧式だからな。」 「そりゃあ〜無いよ〜、姉さん!」 「じゃあ、クローンかなんかか?」 「そうかも知れませんねえ…、いなくなりましたね。」 「そうだねぇ。どこに行ったんだろう?」 アニーが、呟くように言った。 「この辺りは、ウサギやリスが、なぜか多いんですよ。」 「昔から多いんですか?」 「最近、多くなったらしいです。たぶん、餌をやる人が多くなったからじゃないでしょうか。」 「そうかも知れませんね。」 「熊も、ときどき出ますから。」 「ここにも出るんですか?」 「ええ、出るらしいです。…知らんけどな。」 「ははは、面白いわ。こいうときに使うんですね。」 「そうなんです。」 「今度、誰かに使ってみよう。」 福之助の目玉の動きが止まった。 「姉さん、気温が下がってます。」 「室温は何度だい。」 「現在、14.8度です。」 「下界よりは、10度低いなあ。」 「そうですねえ。千メートルの高台ですからねえ。」 姉さんは、アニーを見て尋ねた。 「寒いですか?」 「ちょっとだけね。」 「じゃあ、エアコンで暖めましょう。福之助、エアコン点けて。」 「はい。」 釣竿を担いた三人の子供達が、川に向かって歩いていた。 「釣りもいいなあ。どこで釣るのかなあ?」 「弘法大師の堤防というところがあるんです。」 「弘法大師の堤防?」 「弘法大師が設計した堤防で、円形に湾曲してるんです。」 「水の圧力を計算してるんですね。」 「そうらしいです。」 「弘法大師は科学者でもあったんですね。」 「はい。」 「あっ、そうだ。抗菌マスク買ってきたんだ。」 姉さんは、紙袋から抗菌マスクを取り出した。アニーに手渡した。 「はい。」 「どうもありがとう。」
|
|