「奥の院の看板があったんですけど、奥の院って近いんですか?」 「ええ、公園の隣にあります。」 「何があるんですか?」 「弘法大師・空海がいます。」 「います?いますって、生きてですか?」 「はい、って言うか、そういうことになってます。」 「生きていることになっているのですか?」 「はい、ミイラになってね。」 「ミイラ!?」 「石室のなかで、座っていられるんだそうです。」 「そうなんですか。それは知りませんでした。」 「そういうことらしいです。大阪人は、こういうとき、知らんけどな!で終わるんですよ。」 「あっ、それ聞きました。さっき、いきなり、知らんけどな!って言って行ってしまったんですよ。何のことだか、さっぱり分かりませんでした。そういうことだったんですね。」 「べつに意味はないんですよ。別れの挨拶なんです。」 「そうだったんだ。」 「そのミイラなんですけど、見た人はいるんですか?対面できる人はいるんですか?」 「ええ、でも限られた人しか対面できませんけど。」 「お坊さんもですか?」 「はい、お坊さんもです。限られた人だけです。」 「じゃあ、ミイラの写真とかは、どこにも無いんですね。」 「ええ、そうです。」 「そうですかあ〜。」 「見たいんですか?」 「…ちょっとだけ。」 「昔は、偉い人は、ミイラになってたんですよ。」 「復活のためにですか?」 「密教の場合には、守護神になるんですね。弘法大師は、今も高野山を守っているんです。」 「偉い人と凡人は、どこが違うんでしょうかねえ?」 「そうですねえ…、偉い人は、物事を大きく見てるんじゃないですか。」 「大きくですか…」 「凡人は、その場の小さな事に惑わされてしまいますね。大きく見れない。」 「そうですねえ。」 「大局観の違いではないでしょうか。」 「たいきょくかん?」 「大きく見て判断する能力です。囲碁や将棋の能力ですね。」 「アニーさんは、囲碁とか出来るんですか?」 「嗜(たしな)む程度です。父が、囲碁で生活してたものですから。」 「囲碁で、プロ棋士だったんですか?」 「はい。小さい頃は、厳しく教わりました。」 「そうか、だから冷静なんですね、いつも。」 「そうでもありませんよ。」 福之助は、窓際に立って、外を眺めていた。 「姉さん、甲賀忍だ。」 姉さんが、「えっ〜!?」と言いながら、駆け寄ってきた。福之助が見てる方向を見た。 「ほんとだねえ。何やってるんだろう?」 「リヤカーに、人を乗せてますよ。」 「見りゃあ分かるよ。」 「後ろで押しているロボット、紋次郎に似てますねえ。」 「そうだねえ。」 「昨日も、紋次郎みたいなのを見たし…」 「本当に、紋次郎かも知れないねえ。」 「だったら、何しに来たんでしょう?」 「さぁ〜〜?」 「紋次郎だとしたら、あけみさんも来てるんでしょうか?」 「そうかも知れないねえ。仕事かなあ・・」 「何の仕事でしょう?」 「…電話してみようか。」 「確認したほうがいいかも知れませんね。」
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