「アニーさん、夕食は何を食べる?」 「そうですねえ・・」 「精進料理なんか、どうかしら?出前してもらいましょうよ。」 「まだ三時ですよ。」 「今から予約しておきましょう。」 「そうですねえ…」 「せっかく高野山に来たんだし。」 「そうですねえ!」 「わたしが奢(おご)りますよ。」 福之助は、姉さんの隣で、ボーっと立っていた。 「きっと、姉さんの魂も清められますよ。」 「なんだって!?」 アニーは、上体を起こした。 「食事代は、経費の内ですから、こちらで払います。」 「あっ、そうなんですか?」 「はい、気にしないでください。」 「ラッキー!じゃあ早速。何がいいかな〜?」 「高野山では、あまり食べたことないものですから、知らないんですよ。」 「いい方法があります。」 姉さんは、テーブルの上のパソコンを指差した。 「あのパソコン、インターネットに繋がってますよね。」 「ええ。」 「あれで調べましょう。直接に注文できる店もありますし。」 「そうなんですか。」 「そうなんですよ。」 「詳しいんですねえ。」 福之助が答えた。 「姉さんは、食べることに関しては、とってもとっても詳しいんですよ。まるで食べ物の博士なんです。」 「余計なこと言うんじゃないよ。じゃあ、調べますね。」 姉さんは、パソコンの前に座った。スイッチを入れた。 「え〜〜っとっと・・」 起動音が、アニーにおまかせのテーマ曲だった。姉さんは驚いた。壁紙はアニーのハイキックだった。 「おぉ〜〜〜、ワンダフル!」 福之助が、パソコンの画面を横から覗いた。 「きゃっこいい〜〜〜!」 姉さんは、直ぐにブラウザを立ち上げた。福之助は文句を言った。 「な〜〜んだ、アニーさんが見えなくなっちゃった!姉さん早いなあ〜!」 きょん姉さんは、福之助の言葉を聞き流して、素早くマウスを動かし、指を動かしていた。 「高野山 おいしい精進料理 出前 っと。」 福之助が、横から口を出した。 「おいしいは、要らないんじゃないですか?」 「どうしてだよ?最も重要な項目じゃないか!」 「検索率が落ちますよ。」 「…そうだな。検索率が悪くなるな。君、いいこと言うねえ〜、よ〜〜し、検索!」 検索結果が、直ぐに表示された。 「お〜〜〜っ、あるねえ〜〜。たいしたもんだ。」 姉さんの顔は、ほころんでいた。 「う〜〜ん、迷っちゃうなあ〜。」 「姉さん、印刷したらどうですか?アニーさんも見れるし、プリンターも繋がってますよ。紙もあります。」 「そうだねえ。じゃあ、印刷しよう。」 姉さんは、それぞれ2枚を選択し、印刷をクリックした。すぐに出てきた。姉さんは、アニーに手渡した。 「はい、どうぞ。」 「ありがとう。」 「どれどれ・・・」
● 中央食堂・さんぼう 高野山の伝統料理、精進料理にひと手間かけた創作メニューが味わえる。 自家製胡麻豆腐や地元産の古代米や麦、大豆をふんだんに使ったご飯もおいしい。器は地元陶芸家の作品。
● 梵恩舎(ボンオンシャ) 世界を旅してきたオーナーが営むカフェ、古い民家を改造した素敵な店。 旬の土地の野菜を使って、イタリアやフランスの家庭料理風に仕上げたベジタリアンランチが食べられる。
● 釜飯 つくも食堂 高野山大門近くの店。高知のかつお節、地のフキやワラビなどひとつひとつの素材にこだわって作られた釜飯がおいしい。 地鶏釜めしや、四季の味を炊き込んだ釜めしなどがある。
● 天徳院(てんとくいん) 明治まで女人禁制だった高野山で修行僧たちが生み出した精進料理を味わえる。 宿坊の宿泊者が食べるのが一般的だが、天徳院は昼食のみの利用もできる(要予約)。
● 花菱(はなびし) 高野山名物の精進料理を気軽に食べたいときにおすすめの店。 本格的な精進料理が味わえるほか、精進と魚介、玉子を彩りよく組み合わせた料理、寿司や弁当類もある
アニーの声が響いた。 「わたし、花菱(はなびし)の花御堂(はなびどう)弁当=2940円でいいわ。」 「どれかな…、あっ、これね。四季煮合せ盛込み・味御飯・果物・ごま豆腐・味噌汁・食前酒付。」 福之助は、姉さんの横でニヤニヤしながら、姉さんの横顔を見ていた。 「どうですかぁ〜、いいのありますかぁ〜〜?」 「おまえなあ、気持ち悪いよ、変な声出して。…じゃあ、わたしも、これでいいわ。」 福之助が、姉さんに助言した。 「姉さん、それだけでいいんですかぁ?」 「なんだよぉ〜!?」 「食いしん坊には、物足りないんじゃないんですかぁ〜?」 またしても変な声だった。 「なんだって!」 「人間は、食べたり飲んだり、大変ですねえ。」 「そうか、食べる楽しみがなくって、あんたは可哀想だねえ。」 「そんなことはありませんよ。食べる楽しみはありませんが、食べない苦しみもありませんから。」 「な〜るほど。そういうことになるね!おまえ、ときどき頭いいじゃん!」 「苦があって、楽があるのです。」 「な〜るほど。あんた、ときどき哲学者になるねえ。」 「わたしは、ただのアルミのポンコツロボットです。」 「おまえ、執念深いねえ〜!あっ、そうだ!三時のおやつの時間だわ!」 アニーが、テーブルを指差した。 「おやつなら、袋の中にあります。」 「ほんと、わ〜、何かしら?」 姉さんは、テーブルの上の袋を、目を輝かせながら開けて調べた。 「とらや洋菓子店、笹巻あんぷ。ふ〜〜ん、これはおいしそうだなあ。」 「よもぎを混ぜた生麩で、あんこをくるんで、熊笹で包んでありやつですね。」 「アニーさんは、詳しいなあぁ〜。」 「それ、笹の香りと、よもぎの香りがなんとも言えないんですよ。」 「うわ〜〜ぁ、そうなの。詳しいんですねえ〜ぇ。福之助、お茶お茶、お茶沸かしてよ。」 「お茶を沸かすんですか?お湯を沸かして、注ぐんじゃないですか。」 「そうだよ、こんなときに、屁理屈言ってるんじゃないよ。」 「屁理屈なんかじゃありませんよ。」 「ええい、しゃらくさい!さっさと沸かしんしゃい!」 「しゃらくさい?沸かしんしゃい?変な言葉だなあ〜、お湯を沸かせばいいんですね。」 「お湯はね、少し冷ましてから入れるんだよ。」 「はい。」 「手を抜くんじゃないよ。」 「手を抜く?そんなことはしませんよ。ボルトで締まってますから。」 「ボルトでって、何のこと?」 「姉さん、時々変なこと言いますねえ。」 「おまえだろう、変なこと言ってるのは。」 アニーが、ベットの上で、クスクスと笑っていた。 「あなたたち、とっても面白いわ。まるで漫才みたいだわ。」
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