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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第50回   地球環境主権論
「世の中は、ちょっと馬鹿、ちょっと精神異常者が多いんだよ。」
「ちょっと馬鹿って、どういうの?」
「病院に行くほどでもない馬鹿や精神異常者。」
「そんなに多いの。」
「ゴキブリが一匹いると、十匹は隠れているって言うだろう。」
「なるほどね。」
「親としても、病院には入れたくないわけよ。体裁もあるし。」
「なるほどね。」
「病院も、他人に迷惑をかけなければ、病院には入れないんだよ。」
「なるほどね。」
黙って聞いていたショーケンが、アキラをギョロっと見た。
「おまえ、さっきから、なるほどねばっかじゃんよ。何かないのかよぉ、意見は。」
「…ないね。まったく知らない世界だから。」
「少しは、憶測して考えろよ。」
「おくそくって、何よ?」
「そんなことも知らねえのかよ。」
「想像力だよ。自分で考えるの。」
「そうか、じゃあ、将棋みたいなもんだ。」
「なんだい、あの将棋は?穴ぼこに閉じこもって。考える必要がない将棋だよ。」
「穴熊戦法って、ちゃんとした戦法なの。」
「そんな変な戦法に頼ってないで、自分で考えるの。熊じゃ駄目なんだよ。」
熊さんは驚いた。
「えっ!?」
「熊さんのことじゃなくって、将棋のこと。」
「あっ、そう。そういうのがあるんだ。」
「熊さんも、将棋は知らないんだね。」
「う〜〜ん、どうもああいうのはな。」
ショーケンは、熊さんを見た後、アキラを見た。
「ウサギ戦法ってのはないのかよ。」
「そんなのねえよ。」
「じゃあ、作れよ。」
「俺が?」
「誰が作んだよ?そういう心得が駄目なの!自分で創作するんだよ。」
龍次が、リアカーを引いて近づいて来るのが見えた。三人の前で止まった。
「終わった?」
熊さんが答えた。
「ほぼ終わりました。」
「じゃあ、次の場所に移動しましょう。」
龍次の携帯電話が鳴った。龍次は電話を取った。
「はい、龍次です。」
龍次は、眉間にしわを寄せながら話していた。
「あっ、じゃあ今日は無理だから、村に連れてってよ。安静にして休ませて。」
龍次は、電話を切った。
熊さんが尋ねた。
「杉本さんのことですか?」
「そうです。かなり痛いみたいですね。」
「腰は、突然来るからなあ。」
「病院が近くにあって、良かったです。」
「ここには、何でもあるからなあ。」
「じゃあ、教会の方に行きましょう。」
アキラは、目を見開いた。
「え〜、キリスト教もあるの、ここ?」
「教会と言っても、大師教会と言って、真言宗の教会です。」
「なあんだ、そうか。」
教会の方角から、女が小走りにやってきた。
「龍次さん、龍次さんのファンという男が、龍次さんを訪ねてきています。」
「ファン?」
「そう言ってます。」
「龍次さんの、地球環境主権論という本を見たと言ってます。」
「あっ、そう。」
「どうしますか?」
「ちょうどいい、そっちに行こうと思ってたとこなんだよ。」
みんなの横を、数人のオートバイクに乗った若者達が、爆音を轟かせながら通り過ぎて行った。
熊さんは怒っていた。
「まったく、場違いな野郎どもだなあ。人間の屑だな〜。」
龍次が、その言葉に答えた。
「ああいうのも、人間らしくて、いいんじゃないですか。」
「そうかなあ。ありゃあ、野蛮人だよ。」
「彼らも、野生の大地を求めているんですよ。」
「そうかなあぁ〜?」
ショーケンが、遠ざかった彼らに視線を残しながら、ポツリと言った。
「人間というよりも、獣(けもの)だよ、ありゃあ。」
龍次の目は、冷静で穏やかだった。
「ショーケンさんらしい意見ですね。」
龍次は、人工生命のクローンを見るように、ショーケンを見ていた。
熊さんが、ぼやいた。
「あんなのが子供にいたら大変だよ。」
クローンのショーケンには、その言葉の意味が分からなかった。
みんなは、大師教会に向かって歩き出した。爽やかな初秋の空には、雲一つ無かった。



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