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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第48回   いつか夜の雨が
きょん姉さんは、隣のログハウスの老人を見ていた。
「わたしの父も、ああいう鋭い目をしていたわ。」
福之助は姉さんの横顔を見ながら、黙っていた。
「お父さんは、大学の先生で、空手の達人だったの。」
「そうでしたね。」
「わたしは有名な御転婆(おてんば)で、男の子をいじめて遊んでいたの。」
「今と、同じですね。」
「なんだって!」
「すみません。」
「怪我をさせた男の子の家に、母が謝りに行くの。」
「極悪だったんですね。」
「なんだって!」
「すみません。」
「で、お父さんが、わたしに空手の修行をさせたの。自分に厳(きび)しく他人に優しくを教えようとしたの。」
「自分に厳(きび)しく他人に優しく。ですか、武道の精神ですね。」
「自分に厳しくないと、他人には優しくなれないってことを知ったわ。」
「なるほどぉ。最近は、逆な人が多いですね。自分に優しく、他人に厳しい人が。」
「武道をやってるときは、とっても厳しかったわ。」
「ざまあみろ、いい気味だ!」
「なんだって!」
姉さんは、正拳突きで、福之助のアルミのボディを突いた。ボンッと音がした。
「すみません。プログラムエラーです。」
「でも、普段の父は、とっても優しかったわ。」
「そうなんですか。」
「ときどき、吉田拓郎の歌を、ギターを弾きながら歌ってくれたわ。」
「そうなんですか。」
「それはなぜか、小雨の夜だったわ。きっと何かあったんだわ。」
「どういう曲ですか?」
「いつか夜の雨が・・」
福之助は、電子メモリー内の検索を始めた。
「ありました。吉田拓郎・いつか夜の雨が。歌いましょうか?」
「えっ、あんたが?」
「はい。」
「じゃあ、歌ってみてよ。」

 いつか 夜の雨が〜 走り始めたね〜 過ぎ去るものたちよ〜 そんなに急ぐな〜〜 ♪
 君の住む街を思い出させるねぇ〜 あの頃の愛の唄よ 喜びをうたうな〜 ♪
 君が吐く息に〜 呼吸をあわせながら〜 うたいつづける ぼくに〜 ♪
 君がどこへ行くのか 知らせてくれないか〜 帰っておいで ぼくに〜 ♪
 いつか夜の雨が〜 君の寝顔に〜 安らぐひとときよ いつまでつづくか〜〜 ♪
 君の眠る部屋も〜 同じ雨だね〜 出てきてくれないか〜 いつでも待ってる〜〜 ♪
 僕の愛の唄は〜 子守唄になっろうか〜〜 ♪
 つらく長い日々に〜 僕の愛の唄は慰めになったろうか〜 色あせやすい 日々に〜〜 ♪
 いつか夜の雨が〜 いつか夜の雨が〜 いつか夜の雨が〜〜 ♪ 

「福之助、上手だね・・」
姉さんは、涙を流していた。
「お父さんに、似てましたか?」
「ちっとも似てなかったけど、とても似てたわ。」
「はっ?」
「どうもありがとう。」
「だったら、姉さん。」
「なんだい?」
「ロボットにも、もっと優しくしてください。」
「なんだってぇ!」


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