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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第46回   愚かなる独り言
陽射しはきついが、心地良い風が木々を撫でながら、そよ風そよそよと流れていた。
きょん姉さんは、歌いながら帰路を急いでいた。
「秋を彩(いろど)る〜ぅぅぅ〜、 かえでや蔦(つた)はぁ〜ぁ、山のふもとぉの〜〜、すそ模様ぉ〜〜〜ぉお♪」
ここには、山があり雲があった。
「うまそうな雲だなあ〜。」
ここには、秋を眺める余裕があった。
「谷の流れぇ〜にぃ〜〜、散り浮くもぉみぃじぃ〜〜、波に揺ぅらぁれぇてぇ〜〜、離れぇて〜寄ぉってぇ〜〜、赤やぁ黄ぃ色ぉ〜〜の〜ぉ、色ぉさぁまざまぁにぃ〜、水の上にぃ〜もぉ〜、 織るぅ錦ぃぃ〜〜〜♪」
額(ひたい)の剥げた小柄な男が立っていた。きょん姉さんを、呼び止めた。
「ちょっと、お待ちください。」
姉さんは、セグウェイを止めた。
「なんでしょうか?」
「ニトロと申します。」
「ニトロ…?」
「心に爆発は欲しくありませんか?」
「心に爆発?」
「魂に爆発は欲しくありませんか?」
姉さんは、きっぱりと答えた。
「欲しくありません。急いでいるので、ごめんなさい。」
「これはこれは、失礼しました。」
男は、パンフレットのような紙を手渡した。
「気が向いたら、見てください。」
姉さんは、面倒なので受け取り、前進した。男は、頭を下げていた。
「なんなんだい、いったい?」
姉さんは、紙を見た。
「みんなで新しい仕事を作ろう!…ニトロ仕事開発研究所、ふ〜〜〜ん…」
姉さんは秋の空を見た。ここには、澄んだ青い空があった。鳥が舞っていた。
「剥げを愛する人はぁ〜〜、心広き人〜〜〜♪っと、きたもんだぁ〜。」
高野山病院の前だった。
「おや・・?あれ、紋次郎に似てるなあ。」
高野山病院の入口で、ロボットが人間をおぶっていた。
ロボットは、病院の中に入って行った。
「そんなはずはないな。」
転軸山(てんじくさん)公園内で、誰かがギターを弾きながら大きな声で歌っていた。彼の歌を聴いている者は、誰もいなかった。その男の歌唱力に、姉さんは思わず止まった。

 丘を登って下界を〜見ると〜ぉ 小さな世界が そこにぃある〜 ♪
 人はあくせく何処へ行く〜ぅ 人は疲れた足取りで〜ぇ しかも〜 人は急いでいた〜ぁぁ ♪
 丘を登って下界を〜見ると〜ぉ 小さな世界が そこにぃある〜 ♪
 人は命の絶えるまで〜ぇ 人は短い人生を〜ぉ しかも〜 人は急いでいた〜ぁぁ ♪
 丘を登って下界を〜見ると〜ぉ 小さな世界が そこにぃある〜 ♪

「お上手ですねえ。」
姉さんは、手を叩いた。
「ありがとうございます。」
「練習ですか?」
「時々、歌いたくなるんですよ。」
男は、山々を見ていた。
「時々、何のために働いているのか分からなくなりましてねえ。」
「…」
「僕は、どうせ、誰からも相手にされない空気みたいなもんだと、気がついたんですよ。」
「何かあったんですか?」
「いやあ、時々、女房や娘に、お父さんって、空気みたいねって言われるんですよ。」
「ああ、それで。」
「まあ、自業自得ってもんですかね。」
「自業自得?」
「家族を放ったらかして、仕事以外は、まったく無縁でしたから。」
「で、空気だと言われたんですか?」
「どうせ、僕は空気ですよ。」
「でも、空気は一番大切ですわ。」
「えっ?」
「空気がないと、人間は生きていけませんわ。」
「あ〜、なるほどぉ。」
「大切なものは、当たり前になって、気付かないんですよ。」
「なるほどぉ〜〜!」
「私の父も、そうでしたよ。死んでから気がつきました。」
「いや〜〜、ありがとう!」
「大切なことは、死んでから気がつくんですよ。人間って、そういうもんですよ。」
「いや〜〜、時々死のうと思ったりしたけど、あなたの言葉で光明がさしました。弘法大師みたいな人だ!」
「それは、オーバーですよ。」
「死ぬことばっかり考えてたけど、愚かでしたよ。」
「死んでからのことは、死んでから考えればいいじゃないですか。」
「おお〜〜〜、素晴らしい言葉だぁ!」
男は、涙を流して、姉さんを見ていた。手を合わせていた。山は山らしく、そこにあり、雲は雲らしく流れていた。
きょん姉さんは、笑みを浮かべて観音菩薩のような表情で男を見ていた。
「人間は皆、自分自身が分からなくって、もがき苦しんでいるんですよ。」
「そうですね…」

男は再び歌いだした。

 人間なんて らららららら ら〜らら〜 ♪
 人間なんて らららららら ら〜らら〜 ♪
 何かが欲しいおいら〜 それが〜 何だか分からない〜〜 ♪
 だけど〜 何かが足りない〜よ〜 今の自分はおかしいよ〜 ♪
 空に浮かぶ雲は〜〜 いつか〜どこかに飛んでいく〜〜 ♪
 そこに〜 何があるんだろか〜 それは〜 誰にも分からない〜 ♪

「お上手ですわぁ〜〜。」
「ありがとうございます。」
「歌ってバカになって、気楽に生きればいいんですよ。」
「バカになってですか?」
「気楽バカが一番です。」
「気楽馬鹿ですか…」
「気分バカです。」
「気分バカ…」
「ただし、知能はバカではいけません。ほんとうのバカになってしまいますから。」
「そりゃあ、そうだ。ははははは。」
「知能は、とっても高そうですね?」
「さ〜〜〜〜〜、どうでしょう?」
二人は、お互いを見ながら大きく笑いだした。
「お姉さんは、知能犯だなあ〜!」


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