龍次は、杉本さんに尋ねた。 「杉本さん、大丈夫ですか?」 杉本さんは、ベンチに腰掛けていた。両手を伸ばし、身体を支えていた。 「ちょっと、腰をやられちゃったみたいなんだ…」 「歩けないの?」 「ああ…」 「これじゃあ、仕事なんか出来ないな。忍くん、リアカーを持ってきてくれ。病院に連れて行こう。」 「はい。じゃあ、持ってきます。」 忍は、駆け足で庭園内に入って行った。 「立てる?」 「・・なんとか。」 「前にもやったことあるの?」 「はじめてだよ。」 「椎間板(ついかんばん)かなあ・・」 忍は、リアカーを片手で引きながら、駆け足で戻ってきた。 「龍次さん、俺行きますよ。」 「一人で大丈夫かな?」 「大丈夫です。」 ロボットの紋次郎が、庭園内から駆け足でやってきた。杉本さんの前で、しゃがみこんだ。 「一宿一飯の恩義、あっしが背負って行きましょう!」 それを見ていたアキラが笑った。 「おまえさあ、時代劇の見過ぎじゃないの?」 みんなも笑った。 忍が笑いながら断った。 「いいよ、俺がリアカーで運ぶよ。杉本さんをリアカーに乗せてくれよ。」 「分かりました。」 紋次郎は、杉本さんを抱きかかええようとした。紋次郎の動力源が、ウィ〜〜ンと唸った。 「重いなあ…」 アキラが紋次郎の側(そば)に、慌てて駆け寄った。 「なんだよ、ロボットのくせに力が無いんだな〜!」 「ごめんなさい。」 杉本さんが、ゆっくりと立ち上がった。 「いいよ、大丈夫。自分で乗れる。」 杉本さんは、ゆっくりとした動作で自分で乗った。 龍次が、紋次郎に言った。 「それじゃあ、紋次郎くんは、リアカーが揺れないように、後ろから押して行きなさい。」 紋次郎は、素直に答えた。 「はい!」 甲賀忍と紋次郎は、高野山病院に向かって、ゆっくりと進み出した。日本三大名鐘のひとつ、根本大塔の前にある大塔の鐘・高野四郎の鐘が、一時の鐘を打っていた。 歩(あゆみ)が、龍次を見て尋ねた。 「ショーケンさんは、どこで仕事してるんですか?」 「午後からは、天徳院庭園(てんとくいんていえん)の中です。」 「集合場所は、いつもの公園ですね。」 「そうです。」 歩(あゆみ)は、ショーケンとアキラに手を振った。 「じゃあ、頑張ってねぇ〜!」 ショーケンとアキラは、少し笑いながら黙って手を振った。 龍次たちは、庭園の中に入って行った。 歩(あゆみ)がいなくなってから、龍次たちのいた場所を、野球帽をかぶりリュックを背負った青年が通り過ぎて行った。
|
|