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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第44回   おばさんの見本
高野山郵便局の反対側の信号の前で、セグウェイに乗って渡るのを待っていると、野球帽をかぶりリュックを背負った、さえない表情の青年が通りかかり、姉さんに尋ねてきた。
「あのう…」
次の言葉が無いので、姉さんは促(うなが)した。
「なんでしょうか?」
「あのう…」
「だから、何でしょうか?」
「ニート革命軍の村って、ご存知でしょうか?」
「ああ、知ってますよ。次の交差点を右に曲がると、警察署があります。そこを真っ直ぐ行くと、転軸山公園があります、そこを左に行くと、ニート革命軍の村です。」
「ああ、どうも、ありがとうございます。」
青年は姉さんの目をかわすように深く頭を下げ、足早に去ろうとした。
姉さんは、青年を呼び止めた。
「ちょっと、待った!」
青年は足を止め、振り向いた。
「何でしょうか?」
「暗いなあ!」
「はっ!?」
「顔が暗いなあ。そんな顔をしてたら、貧乏神や死神が寄ってくるよ。」
「えっ!?」
「どんなに悲しく辛くても、笑顔で歩きましょう。そうすると福の神が寄ってきます!」
「そうなんですか?」
「ええ、そうです。そうすると人も寄ってきます。」
「分かりました。」
「笑ってみて。」
青年は、笑ってみせた。
「でっきるじゃない。とってもいい顔だわ。」
「ありがとうございます。」
青年は、深く頭を下げると、立ち去ろうとした。
「ちょっと待って。何しに行くの?」
「…龍次氏の弟子になりたくって、来ました。」
「弟子に…」
「はい。」
「ふ〜〜〜ん、人気あんだね。公園を過ぎたら、川に沿って行くの。」
「分かりました。」
「あっ、そうだ!今、ニート革命軍の連中は、高野山の掃除をしているわ。」
「掃除ですか?」
「きっと、山内のどこかで掃除をしているわ。」
「いろいろと、ありがとうございます。」
青年は、きょん姉さんの目を見ながら頭を下げると、足早に去って行った。
信号が青になっていた。姉さんは、急いで渡った。郵便局があった。
「郵便局は、ここだね…、コンビニ、コンビニ…」
大きな男が通りかかった。姉さんのセグウェイを見て立ち止まった。
「おっ、セグウェイだ!」
大阪訛りだった。姉さんは、渡りに船で尋ねた。
「この辺りに、コンビニありますか?」
「あるよ。こっちに百メートルほど行きなはれ。直ぐに分かりまんがな。」
「ありがとうございます。」
「知らんけどな。」
「はっ!?」
男は去って行った。
「知らんけどな…、どういうこと?」
姉さんは、意味が飲み込めなかったので、とにかく向かった。
薬屋は、コンビニ<ココストアぜにや>の隣にあった。景観重要建造物・明治23年とらや薬局。
「とらや薬局・・、ここだな。」
大きな虎が、店前に前足を上げて立ちすくんでいた。
「知らんけどなって、ちゃんとあるじゃない。」
中に入ると、おばさんの見本のようなおばさんが出てきた。
「いらっしゃいませぇ!」


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