ショーケンとアキラは、大門からすぐの所にある、テ−ブル七つの<つくも食堂>で龍次と一緒に、名物の釜めしを食べた後、大門の金剛力士蔵の下で、石の階段に座って一服していた。 ショーケンは、煙草の煙を吐くと、龍次に尋ねた。 「皆さんは、どこで食事を?」 龍次は、食堂で買ったホットな缶コーヒーを飲んでいた。 「適当な場所で、弁当を食べていますよ。」 「俺達、いいんですか、こんなところで?」 「今日は、特別です。」 アキラは、コーラを飲んでいた。 「おまえ、コーラ好きだねえ。」 「これ、胃腸にいいんだよ。」 「ほんとかよ?」 「ああ、そうだよ。アメリカ人は胃腸が悪いときに飲むんだよ。」 「ほんとかよ?」 龍次が、口を挟んだ。 「あっ、それ本当ですよ。アメリカの医者は、胃腸が悪いときには、コーラを飲みなさいって言います。」 アキラの顔は、得意気だった。 「なっ!」 「ふ〜〜ん。おまえ、胃腸悪いの?」 「別に。」 突然、甲高い女の声がした。 「ショーケンさ〜〜ん!」 赤い折り畳み自転車に乗った女子高校生だった。昨日のリスカの少女だった。 龍次が少女に手を振った。 「歩(あゆみ)ちゃん、もう終わったの?」 「今日は、土曜日だから。」 「あっ、そうか。」 ショーケンは目を細めて、少女を睨んでいた。 「歩(あゆみ)ちゃんって言うんだ。無闇な嘘はいけないよ。」 「昨日は、ごめんなさい。ショーケンさんだったから、つい。」 アキラには、学生服姿の少女が眩しく見えた。 「つい、なんなんだよ?」 「つい…、分からないけど、嘘をついてしまったの。」 龍次は、思慮深い僧侶のような優しい目で、少女を見ていた。 「嘘は、女性の最終兵器ですね。」 アキラは、兄貴みたいな微笑みを見せていた。 「最終兵器?」 「おそらく、ショーケンさんに、かまってもらいたかったんですよ。」 アキラは、少女を横目で睨んだ。風が、少女の前髪を揺らした。 「ふ〜〜〜ん。」 「だから、ショーケンさんと友達になれたんですよ。」 「なるほどねえ〜。」 「女性は、結果オーライなんですよ。」 「ふ〜〜〜ん。な〜〜んだか、複雑だなあ。」 少女は、黙っていた。数秒の沈黙が流れた。雑草の間から、コウヤボウキが、小さな白い花をつけて風に揺れていた。アキラが少女に尋ねた。 「ここには、高校もあるんだ?」 「あるよ。」 龍次が、アキラを見ながら説明をはじめた。 「高野山大学系列の、高野山高校というのがあります。高野山真言宗設置の私立の高等学校です。」 「なんでもあるんだね。」 「病院も、スーパーも、コンビニも、インターネット喫茶もありますよ。」 「警察も?」 「ええ、高野山防衛警察という、高野山だけの警察部隊が。」 「えっ!?」 「大丈夫、同胞である我々には手を出しません。逆に守ってくれますから安心してください。」 「へ〜〜〜、そうなの。」 「昔の、この辺りを銃で守っていた、織田信長と戦っていた根来衆(ねごろしゅう)みたいなのものです。」 「根来衆(ねごろしゅう)?」 「真言密教の僧兵部隊です。」 遠くの方から、甲賀忍の声がした。 「龍次さ〜〜ん!」 甲賀忍は、マウンテンバイクに乗っていた。龍次の前で止まった。 「何かあったのかね?」 「杉本さんが、天徳院庭園(てんとくいんていえん)の前で、ぎっくり腰で動けなくなってます。」 「そりゃあ、大変だ!今、行く!」 みんなは、急いで天徳院庭園に向かった。
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