忍者の彼は、ステンレスの皿にタレを入れると、一串一串丁寧にタレをつけ、焼いていた。 「わ〜、おいしそう〜!もう、炭がはいってたんですね?」 「来て、すぐに熾(おこ)して、待ってました。」 「用意がいいんですねえ、さすが忍者!」 「すぐには焼けませんので、フランスパンでも焼いて食べててください。」 「フランスパン…、硬いから、あんまり好きじゃないんだけどなあ。」 「焼くと、ポロポリして食べやすくなるんですよ。」 「そうなの?」 「やってみれば分かります。」 「じゃあ、やってみよう!ふ〜〜ん、ちっとも知らなかった。」 「椅子の上にバッグがあります。コーヒーと紅茶が、ポットに入ってます。赤色のポットがコーヒーです。」 「赤色がコーヒーね。」 「まだ、熱いですよ。」 「じゃあ、せっかくだから、熱いうちに飲みましょう。」 「それがいいですね。」 「チタンのフタ付マグカップも入ってます。」 「はい。忍者さんも飲みます?」 「わたしは、いいです。」 「お名前は、何と言うんですか?」 「あくまでも、忍者と言うことで。」 「はい、分かりました!」 姉さんは、椅子に座っているアニーを見た。 「アニーさんは?」 「じゃあ、紅茶をください。」 「はい。」 福之助は、アニーの後ろで、ぼんやりと立っていた。黙って人間たちの行いを見ていた。 姉さんは、ポットとマグカップを取り出すと、テーブルの上に置き、紅茶をマグカップに注いだ。 「はい、アニーさん。」 「ありがとう。」 それから、自分が飲むマグカップにコーヒーを注いだ。 忍者が、煙にむせながら言った。 「少し砂糖が入ってます。足りなかったらスティックのシュガーが入ってます。」 姉さんは、一口飲んだ。 「ちょうどいいわ。」 アニーも一口飲んだ。 「ちょうどいいわ。ナイステイスト。」 福之助は、黙って人間たちの行いを見ていた。 アニーが立ち上がった。 「やっぱり、高原は寒いわねえ。」 福之助が答えた。 「現在の気温は、摂氏十五度です。」 根来一角は、アニーのミニスカートに視線を向けた。 「それじゃあ、寒いですよ。衣類などは、小屋の中にあります。」 「そのようですね。わたし、着替えてくるわ。」 高原の風は、爽やかであったが、ときどきクールな風が吹いていた。 根来一角は、肉を焼きながら風を見ていた。 「高野山は、けっこう寒いんですよ。」 「このマグカップ、いいですね。」 「二重になってるので、冷めにくく、手に持っても熱くならないんです。」 「よくできてるわ。」 バーベキューコンロは、半分空いていた。 「ここで、パンを切って焼いてください。ナイフもバッグに入ってます。」 「はい。」 パンを焼いていると、アニーが紺色のノーマルなジーンズ姿で戻ってきた。 「やっぱり、ジーンズのほうがいいわ。」 きょん姉さんは、目を見開いた。 「わ〜〜、雰囲気が、じぇんじぇん違う。」 福之助が、手を叩いた。 「なんで、手なんか叩くんだよ?」 「変ですか?」 「変だよ。」 姉さんは、パンを一口かじった。 「ほんとだ。感触も味も、じぇんじぇん違う。」 根来一角は、肉を見ながら、ときどき串を回していた。 「でしょう。」 「けっこう、時間かかるんですね。」 「もうすぐです。」 アニーは、椅子に座ると、皿の上の焼かれたフランスパンを食べ始めた。 「うん、あっさりして、いい味ね。」 忍者は、皿を持った。 「はい、できました〜〜!」 姉さんは、目を見開いて喜んだ。 「わ〜〜〜〜〜っ!」
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