病院の救急医療室の廊下の長椅子に座って待っていると、ショーケンが出てきた。 「兄貴、早かったね。」 ショーケンが救急医療室に入ったのは、10分ほど前のことだった。 「水飲んだら、あら、治っちゃった!って行ったら、それで終わり。」 「も〜う、調子いいんだから。」 「お金払って、さっさと出るぞ。」 二人は、8千円を払って、病院を出た。 「薬もないのに、なんでこんなに高いの?」 「こんなもんだろう。」 「兄貴は、急に変なことやるからなあ〜。」 「しょうがねえだろう。猿人間の収容所に入ったら、気が狂って廃人になるんだぞ。」 「そうだね。」 「高野山(こうやさん)に着くまでは、まだ安心できねえな。」 「そうだね。」 「どうやって行こうか。」 「バスとか出てるじゃないの。」 「そうだなあ。」 「捜そう!」 「ああ。」 「あっ、あそこに交番があるよ。」 アキラは走って行こうとした。 「おまえ、どこに行くんだよ!」 「交番だよ。」 「捕まりに行くのかよ。俺たちは、指名手配されてるんだぞ。」 「あっ、そうか。」 「歩いて自分で捜すんだよ。」 「ああ、そうだね。」 「病院で聞いてくれば良かったな。」 「そうだね。」 前から小学生の女子が二人やってきた。ショーケンが、笑顔で尋ねた。 「ちょっと聞きたいんだけど。」 一人の女子が、「はい。」と答えた。 「高野山(こうやさん)行きのバス亭って、知ってる?」 「あそこのコンビニの隣の本屋さんの前にバス亭があります。そこから出てます。」 「あっ、あれね。どうもありがとう。」 バス亭には、屋根付のベンチがあった。 「兄貴、1時間に1本だよ。次のバスまで、30分。」 「そんなに待つのかよ。」 「兄貴、コンビニでなんか買ってくるよ。なにがいい。」 「俺も行くよ。」 コンビニに入ると、二人はパン類と飲み物を買った。ショーケンは紀伊半島の地図を買った。 バス停に戻り、二人はプラスチックの長椅子に座った。 アキラはコーラを開け、ショーケンは煙草を吸い始めた。 「兄貴、さすがにここはロボットが歩いてないね。」 「そうだなあ。」 アキラが飲み終わる頃に、高野山(こうやさん)駅行きのバスがやってきた。緑色のマイクロバスだった。 ゴミ箱がないので、アキラは持ってバスに乗り込んだ。 『整理券を、お取りください』のアナウンスが流れた。 二人は整理券を取った。 「何だか、久しぶりに乗ったから、戸惑うねえ。」 「俺もだよ。」 誰も乗っていなかった。二人は左側の、ほぼ真ん中の席に座った。 バスが出ようとしたときに、 「ちょっと、待ってください!」と言って、超ミニスカートの宇宙刑事アニーのような女が乗り込んできた。 彼女のファンだったアキラが、 「わ〜、アニーだ。」と、ショーケンに言った。 彼女は、服装に似合わない紙袋を下げていた。二人の前を花の香りを漂わせながら通り過ぎて、一番後ろの席に座った。 ショーケンが、 「油断するなよ。本物の刑事かも知んねえぞ。」と、小さな声で言った。
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