高野山の六時の鐘が山内を守るように鳴り響いていた。 転軸山森林公園(てんじくさんしんりんこうえん)の大時計が、正午を指していた。 アニーは、その時計を見ながら止まった。 「あ〜〜ら、ちょうど十二時だわ!」 彼女の後ろの福之助も黙って止まった。「ほんとだ。」 きょん姉さんも止まった。 「この鐘の音、日本昔噺(にほんむかしばなし)みたいでいいなあ。」 公園の広い敷地には、アスレチックがあったりして、遊具があちこちに土に埋まっていた。芝生では、穴からリスが顔を出して、きょろきょろと辺りを見回していた。 きょん姉さんは、不似合いな可愛い声で驚いてみせた。 「あっ、リスだわ!」 姉さんを見ると、リスは穴の中に入った。遠くの方で、発電用の風車が、鳥を追い払うように、ゆっくりと回っていた。大きな鳥が、その上を、弧を描きながら飛んでいた。 「この公園、広いんですねえ。」 「冬は、スキーもできるんですよ。」 「そうなんですか。」 「スキーは?」 「じぇんじぇん駄目なんです。」 「そうですか。」 赤いトンボが、姉さんの前を、ひょひょいと飛んで行った。 「高原のリス、爽やかな風と赤トンボ。山々の木々の香り・・、山々にまつわりつく美味しそうな雲。そして、焼肉の匂い…、ん?」 福の助が姉さんの顔を見た。 「どうしたんですか、姉さん?」 「ん、この未知なる肉の匂いは?」 キャンプ場の洋風のログハウスの前で、誰かが手を振っていた。 「こっちで〜〜〜す!」 慈尊院(じそんいん)の忍者男だった。隣の隣のログハウスでは、外国人たちが、楽しそうにバーベキューをやっていた。 アニーが、手を振って答えた。 「もう来てたの〜〜。」 アニーたちは、急いでセグウェイに乗り、彼のもとに向かった。 各ログハウスの横には、木のテーブルとバーベキューコンロがあった。彼の待つログハウスのテーブルの上には、食材が無造作に置いてあった。 「今さっき、来たんですよ。ちょうど良かった。」 姉さんが、忍者男に質問した。 「あそこの外人さんたち、何の肉を焼いているんですかねえ?」 「たぶん、鹿肉です。」 「鹿肉?」 「はじめてですか?」 「はい。」 「じゃあ、今から食べましょう。」 「えっ、鹿肉をですか?」 「はい。そこにあります。」 「わ〜〜〜、それ鹿肉!?。」 彼は、テーブルのポリエチレンの袋から、串に刺さった肉を取り出した。 「これです。」 串には、肉とネギが交互に刺さっていた。 「わ〜〜〜、おいしそ〜〜!」 「さっそく、焼きましょう。」 「わ〜〜〜。」 「タレを取ってくれませんか。あっ、それと、アルミの皿を一枚おねがいします。」 「はいはいはい!」 姉さんは、素早く取って、彼に手渡した。 「はい、忍者のおにいさん!」 「ありがとうございます。」 彼は、まるで料理人のような手つきで、肉を焼き始めた。
|
|