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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第38回   あっかんべ〜〜!
「あっかんべ〜〜〜だ!」
きょん姉さんは、外国人のカップルに向かって、右手の人差し指で目を下を押さえながら、舌を出していた。
外国人のカップルは、姉さんを見て笑っていた。外国人の男が、「ファニイガール!」と言った。
姉さんの横には、福之助と女の子が手を繋いで立っていた。
女の子も、姉さんの真似をして、「あっかんべ〜!」をした。
「姉さん、何やってんですか?大人気(おとなげ)ないことして。」
「大人気(おとなげ)ない?そうかなあ〜?」
「行きましょう。ここにいると長くなりそうなので。」
「そうだなあ。」
福之助は、女の子の手をほどいた。
「さようなら、また来るね。」
「もう行っちゃうの!?」
「お仕事があるから。」
女の子は、少し涙目になっていた。
「絶対に来てよ〜!」
「たぶん、絶対に来るよ。」
姉さんが、「たぶんじゃなくって、絶対に来るよって、言ってあげなよ。」と、女の子の目を見ながら言った。
福之助は、少し大きな声で、「絶対に来るよ!」と、女の子に言った。
「ゆびきりげんまん!」
女の子は、福之助に右手の小指を出してきた。
「ゆびきりげんまん?」
姉さんが、お手本を見せた。
「こうやるのよ。」
「あっ、そう。」
福之助は、女の子の右手の小指に、右手のアルミの小指を絡めた。
女の子が、福之助の目をみつめた。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます!」
「ハリセンボン?」
姉さんが解説した。
「嘘ついたら、針を千本飲むの。」
「…いいですよ。針を飲むくらい、お安い御用で。」
「おまえ、な〜に言ってんだよ。」
「うん?どう答えればいいのかな?」
姉さんが、福之助の代わりに答えた。
「ナミちゃん、絶対に来るからね。」
アニーがやってきて、ウインクした。
「さあ、行きましょうか。」
老婆は、奥のほうで何かをしていた。老婆が出てきた。
「どうもありがとうございました。また来てくださいね。」
「ごちそうさまでした!また、来ます。お元気で。」
アニーたちは、セグウェイに乗り込んだ。
女の子は悲しそうに、福之助に向かって手を振っていた。
「バイバ〜イ!」
福之助も、「バイバ〜イ!」と言った。
白人のカップルも、「アニー、サンキュー、シーユーアゲン!」と言いながら、手を振っていた。
姉さんが、ぼやいた。
「なんだ、わたしには、誰も手を振らないじゃん。」
よく見ると、老婆が姉さんの横で手を振っていた。
「人生は、あっと言う間に終わってしまいますよ。大切に生きなさい。」
「はい。」
「人まねで生きてたら、人まねで終わってしまいますよ。自分に生きなさい。」
「はい。」
「たとえ貧しくとも、自分らしく生きてたら、内から幸せがやってくる。」
「はい。」
「自分の人生は自分で作るんです。だあれも作ってくれません。」
「はい。」
「ぶ〜ぶ〜言って、食べて寝るだけだったら、豚と同じだ。」
「はい。」
「あっ、そうだ。ときどき、熊の五郎が出るから気をつけなよ。」
「熊の五郎?」
「さいきん出る、神様の熊なんだ。この辺りは熊が神様なんだよ。もし襲ってきたら、何か食べ物をあげなさい。」
「え〜〜!?」
「何でもいいんだよ。何でも食べるよ。」
「じゃあ、人間も?」
「人間は食わないよ。」
「あ〜〜、良かった。」
「襲っても、女性のお尻を触って逃げて行くだけだよ。」
「え〜〜、変な熊!」
「まあ、滅多には出ないよ。」
「分かりました。」
「さっきの、狐憑きダンスを見せたら、逃げて行くよ。」
「ほんとですか?」
「ああ、驚いて逃げて行くよ。気をつけて行きなさい。」
「はい。」
姉さんたちは、それぞれに、それぞれの走り方で走り出した。
女の子と老婆が、そして外国人のカップルが、いつまでも手を振っていた。
道の右側には、丹生川(にうがわ)が流れていた。
姉さんが、川岸で座っている人を指差した。
「うわ〜、イワナを焼いてる。おいしそうだなあ。」
三人の釣り人が、竹串に刺したイワナを、おいしそうに食べていた。
「釣りたてが、おいしんだよなあ〜。」
姉さんは、一人で喋っていた。アニーと福之助は、そんなものは見ていなかった。高野山(こうやさん)に向かう道だけを見ていた。
右側に寄りすぎて、川に落ちそうになったので、あわてて左側にセグウェイをコントロールした。
「おっととと!」
その声を聞いた、前で走ってる福之助が振り向いた。
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ。」
丹生川(にうがわ)の上流域は玉川峡と呼ばれ、高野山の摩尼川(まにがわ)を源流に美しい渓谷美をみせ、奇岩怪岩の点在する、整備されたウォーキングコースになっていた。
高野山(こうやさん)は、真言密教(しんごんみっきょう)の聖地であると同時に、迷える人をも救う<現世浄土>の地でもあった。
姉さんは、川に突き出た奇妙に多きい岩を見ていた。
「なに、あの大きな変な岩?」
アニーは、止まった。
「丹生都姫(にうつひめ)が降臨したという、明神岩です。」
「にうつひめ?」
それは、黒い不気味な形をした、三階建てのビルほどの巨大な岩だった。
「弘法大使を招いた、高野山の神様です。」
「そうなんですか。」
巨大な明神岩の前で、五人の修験者たちが、岩に向かって、両手で印を結び、何かを唱えながら佇んでいた。
姉さんの脳裏には、なぜかなぜか、ゼップの天国の階段の、天才ジミーページのギター音が流れていた。
「ロックな風景だねえ…」


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