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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第37回   心は無
福之助の奇妙なステップの踊りが終わると、みんなは福之助に向かって拍手をした。
女の子だけ、笑いながら福之助を見つめていた。
福之助は、しゃがみこんで女の子に尋ねた。
「名前は何というの?」
「ナミ。」
「ナミちゃんか。いい名前だなあ。」
アニーが、女の子の前に出てきた。
「あら、わたしも奈美(なみ)よ。よろしく。」
女の子に、握手を求めた。女の子は、ニコニコ笑って小さな右手を出して握手をした。
「オゥ〜〜、プリティビューティフル!」
と言いながら、少し興奮した様子で、白人の男が出てきた。
きょん姉さんは、自分を指差しながら、当然のように身構えた。
「わたしのこと?」
白人の男は、左手で姉さんを振り払って、アニーの前でとまった。
「オゥ〜〜、アニー!」
アニーは、びっくりして二歩下がった。男は微笑んだ。
「サイン、プリーズ!」
男は、テーブルに走り、スケッチブックみたいなのを持って、急いで戻ってきた。
「プリーズ、サイン!」
アニーは、状況を理解した。
「分かりました。」
スケッチブックにサインした。
「ベリ、ベリィ、サンキュー!メイアイ、シェイクハンド?」
男は、右手を出してきた。
「握手ね…」
握手した。
「オ〜〜、サンキュー!」
男は、しきりに感激していた。
なぜか、姉さんにも握手を求めてきたので、姉さんは喜んで握手した。
姉さんは、少し微笑みながら、スケッチブックを指差した。
「サインもしましょうか?」
「ワット?」
「マイサイン・・」
「オ〜〜、ノーサンキュー、ノーサンキュー。」
男は、テーブルに逃げていった。
「なんだよ、あいつ。失礼な奴だなあ。」
白人の日本語の上手な女が飛び出してきた。そして、白人の男が、ニコニコしながら出てきた。
白人の女は、アニーに頭を下げていた。
「すみません。写真を一枚撮らせてください。」
アニーは、「いいですよ。」と言って、快(こころよ)く承諾した。
白人の男が、アニーの右横に立った。左横には、きょん姉さんが立っていた。姉さんは、ニコニコ笑いながら、右手でVサインをして、アニーのようにウインクをしていた。
白人の男が、白人の女に向かって、姉さんを指差した。
白人の女が、きょん姉さんに、お願いした。
「すみません。どいてください。」
「どいてください?わたしに?」
「すみません。」
姉さんは、「まったく、失礼な外国人だなあ。」と言いいながら、立ち退いた。
福之助と女の子は、椅子に座って、じゃんけんをしていた。
福之助の横では、老婆が椅子に正座して、手に数珠を持ち、揉みほぐしながら、なにやらぶつぶつと拝(おが)んでいた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
福之助は、老婆に尋ねた。
「おばあさん、何をやってるんですか?」
「おまえには、狐(きつね)がついてる…」
「キツネって、コンコンコンのキツネですか?」
「そうだ。おそろしや、おそろしや。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
高野山の方角から、修験者の法螺貝(ほらがい)の笛を吹くのが聞こえていた。
老婆は、高野山を見た。
「修験者がやって来るぞ。」
福之助が尋ねた。
「しゅげんじゃ?」
「山伏(やまぶし)ともいう。」
「やまぶし…」
「山の武士ですか?」
「お前は、アホじゃのう。そんなことも知らんのか。」
「すみません。」
「ちゃんと、学校で勉強してきたのか?」
「いいえ。」
「しょうがない奴だなあ。そんなことじゃあ、立派な人間にはなれないぞ。」
「それは、無理です。」
「わたしはロボットですから。」
「じゃあ、立派なロボットになれんぞ。」
「そうですか?」
「おまえには、絶対に狐が憑(つ)いていてるぞ。」
「そんなの憑いてませんよ。」
「あの、狂ったような踊りは、狐踊りじゃ。以前に見たことある。」
「狐は踊るんですか?」
「ああ、踊るよ。ああいう感じでな。」
再び、高野山の方角から、法螺貝(ほらがい)の笛を吹くのが聞こえた。
「こっちに来るぞ。」
「何かあるんですか?」
「とりついた狐を、とってもらおう!」
「そんなのは、憑いてませんよ。」
「いいや、憑いてる!」
「憑いていませんって!」
「おまえの目は、人を信じない獣の、人間の心を失った目じゃ。」
「人間の心なんか、最初っからありませんよ。」
「だったら、高野山に行って、修行するがよかろう。」
「しゅぎょう?」
「このままでは、おまえは人間の心を持たない、欲望だけの獣になって苦しむぞ。」
「大丈夫、大丈夫。わたし、欲望はゼロですから。」
「一年中、何もしないでいられるか?」
「はい。簡単なことで。心は無ですから。」
「幸せになりたくはないのか?」
「しあわせ?」
「人は、幸せを望めば望むほど、不幸が返ってくる。」
「ふ〜ん、そうなの。」
「どうしてだと思う?」
「さ〜〜あ・・」
「幸福は、外ではなく心の内にあるからだよ。」
「ふ〜ん、そうなんですか。」
ロボットの福之助には、老婆の言ってる意味が、さっぱり分からなかった。
女の子が叫んだ。
「わ〜〜、勝った!わたし十、あなた八〜!」
福之助は、「わ〜〜、負けちゃった!」と、1オクターブ上げて、女の子に答えた。


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