福之助の奇妙なステップの踊りが終わると、みんなは福之助に向かって拍手をした。 女の子だけ、笑いながら福之助を見つめていた。 福之助は、しゃがみこんで女の子に尋ねた。 「名前は何というの?」 「ナミ。」 「ナミちゃんか。いい名前だなあ。」 アニーが、女の子の前に出てきた。 「あら、わたしも奈美(なみ)よ。よろしく。」 女の子に、握手を求めた。女の子は、ニコニコ笑って小さな右手を出して握手をした。 「オゥ〜〜、プリティビューティフル!」 と言いながら、少し興奮した様子で、白人の男が出てきた。 きょん姉さんは、自分を指差しながら、当然のように身構えた。 「わたしのこと?」 白人の男は、左手で姉さんを振り払って、アニーの前でとまった。 「オゥ〜〜、アニー!」 アニーは、びっくりして二歩下がった。男は微笑んだ。 「サイン、プリーズ!」 男は、テーブルに走り、スケッチブックみたいなのを持って、急いで戻ってきた。 「プリーズ、サイン!」 アニーは、状況を理解した。 「分かりました。」 スケッチブックにサインした。 「ベリ、ベリィ、サンキュー!メイアイ、シェイクハンド?」 男は、右手を出してきた。 「握手ね…」 握手した。 「オ〜〜、サンキュー!」 男は、しきりに感激していた。 なぜか、姉さんにも握手を求めてきたので、姉さんは喜んで握手した。 姉さんは、少し微笑みながら、スケッチブックを指差した。 「サインもしましょうか?」 「ワット?」 「マイサイン・・」 「オ〜〜、ノーサンキュー、ノーサンキュー。」 男は、テーブルに逃げていった。 「なんだよ、あいつ。失礼な奴だなあ。」 白人の日本語の上手な女が飛び出してきた。そして、白人の男が、ニコニコしながら出てきた。 白人の女は、アニーに頭を下げていた。 「すみません。写真を一枚撮らせてください。」 アニーは、「いいですよ。」と言って、快(こころよ)く承諾した。 白人の男が、アニーの右横に立った。左横には、きょん姉さんが立っていた。姉さんは、ニコニコ笑いながら、右手でVサインをして、アニーのようにウインクをしていた。 白人の男が、白人の女に向かって、姉さんを指差した。 白人の女が、きょん姉さんに、お願いした。 「すみません。どいてください。」 「どいてください?わたしに?」 「すみません。」 姉さんは、「まったく、失礼な外国人だなあ。」と言いいながら、立ち退いた。 福之助と女の子は、椅子に座って、じゃんけんをしていた。 福之助の横では、老婆が椅子に正座して、手に数珠を持ち、揉みほぐしながら、なにやらぶつぶつと拝(おが)んでいた。 「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」 福之助は、老婆に尋ねた。 「おばあさん、何をやってるんですか?」 「おまえには、狐(きつね)がついてる…」 「キツネって、コンコンコンのキツネですか?」 「そうだ。おそろしや、おそろしや。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」 高野山の方角から、修験者の法螺貝(ほらがい)の笛を吹くのが聞こえていた。 老婆は、高野山を見た。 「修験者がやって来るぞ。」 福之助が尋ねた。 「しゅげんじゃ?」 「山伏(やまぶし)ともいう。」 「やまぶし…」 「山の武士ですか?」 「お前は、アホじゃのう。そんなことも知らんのか。」 「すみません。」 「ちゃんと、学校で勉強してきたのか?」 「いいえ。」 「しょうがない奴だなあ。そんなことじゃあ、立派な人間にはなれないぞ。」 「それは、無理です。」 「わたしはロボットですから。」 「じゃあ、立派なロボットになれんぞ。」 「そうですか?」 「おまえには、絶対に狐が憑(つ)いていてるぞ。」 「そんなの憑いてませんよ。」 「あの、狂ったような踊りは、狐踊りじゃ。以前に見たことある。」 「狐は踊るんですか?」 「ああ、踊るよ。ああいう感じでな。」 再び、高野山の方角から、法螺貝(ほらがい)の笛を吹くのが聞こえた。 「こっちに来るぞ。」 「何かあるんですか?」 「とりついた狐を、とってもらおう!」 「そんなのは、憑いてませんよ。」 「いいや、憑いてる!」 「憑いていませんって!」 「おまえの目は、人を信じない獣の、人間の心を失った目じゃ。」 「人間の心なんか、最初っからありませんよ。」 「だったら、高野山に行って、修行するがよかろう。」 「しゅぎょう?」 「このままでは、おまえは人間の心を持たない、欲望だけの獣になって苦しむぞ。」 「大丈夫、大丈夫。わたし、欲望はゼロですから。」 「一年中、何もしないでいられるか?」 「はい。簡単なことで。心は無ですから。」 「幸せになりたくはないのか?」 「しあわせ?」 「人は、幸せを望めば望むほど、不幸が返ってくる。」 「ふ〜ん、そうなの。」 「どうしてだと思う?」 「さ〜〜あ・・」 「幸福は、外ではなく心の内にあるからだよ。」 「ふ〜ん、そうなんですか。」 ロボットの福之助には、老婆の言ってる意味が、さっぱり分からなかった。 女の子が叫んだ。 「わ〜〜、勝った!わたし十、あなた八〜!」 福之助は、「わ〜〜、負けちゃった!」と、1オクターブ上げて、女の子に答えた。
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