茶屋の奥の方から、ちょこちょことリスが出てきた。福之助の足元で止まった。 アニーが見ていた。 「あらぁ、リスだわ。」 姉さんも見た。 「ほんとだ、かっわいい。」 茶屋の奥の方から、五歳にも満たない女の子がやってきた。 「リスちゃん、リスちゃん。」 リスは、福之助の両足の間をくぐって逃げていった。 「リスちゃん、リスちゃん。」と言いながら、女の子は、福之助の目で立ち止まった。 福之助は、黙って座って、景色を眺めながら、右手で紙コップを持ち、お茶を飲む真似をしていた。 女の子は、びっくりした。そして、福之助のアルミの脚を触った。 「わ〜〜、ロボットだ〜!」 福之助は、女の子に挨拶をした。 「こんにちわ。」 女の子は、びっくりした。 「わ〜〜、しゃべった!」 福之助は、リスの逃げて行った方向を指差した。 「リスは、あっちに行きましたよ。」 「わ〜〜、手が動いた!」 アニーが、女の子に声を掛けた。 「ロボットは初めて見るの?」 「うん。」 姉さんが、福之助の肩をポンと叩いた。 「なんかやってあげなよ。」 「えっ、なにをですか?」 「何でもいいよ。」 「何でもと言っても…、それじゃあ落語を。」 「おまえ、アホか。子供がそんなの分かるわけねえだろう。」 アニーは笑っていた。 「動きのあるのが、いいんじゃないかしら。」 「じゃあ、おまえの得意な、ショーケンのフラフラダンスをやってあげなぁよ。」 福之助は、女の子を避けながら、ゆっくりと立ち上がると、茶屋の前に出て歌いながら、ふらふらしたレゲエのステップで踊りだした。
ハレハレ〜 ♪ ハレハレ〜 ♪ 時の流れに〜 フラフラフララ〜 ♪ どこもかしこも〜 フラフラフララ〜 ♪ ヤクザも家具屋も 医者もスターも 流し流され フラフラフラフラ〜 ♪ 第三世界が来るぜ〜〜 ♪ 春よ来い〜〜 ♪ 子供達もフラフラ〜 政治家もフラフラ〜 ♪ 右も左もフラフラ〜 ♪ 自由に羽ばたけ〜 鳥の〜〜ように〜 ♪ 第三世界が来るよ〜〜 ♪ 春よ来い〜〜 ♪ 狐も狸もフラフラ みんなフララフラフラ〜 狂って狂ってフラフラ〜 ♪
アニーは、福之助を不思議そうに見ていた。 「ショーケンって、松田優作が<神の領域に最も近い人>と慕っていた、ロックのカリスマね。」 「ああ、そうなんですか。」 「マザー・テレサの慈善活動に共感し、インドのカルカッタでチャリティコンサートを行った、世界的に有名な人よね。」 「ああ、そうなんですか。」 アニーが福之助に声を掛けた。 「よっ、天才カリスマ不良、ショーケン!」 姉さんも、アニーが声を掛けた。 「よっ、天才カリスマ不良ロボット、福之助!」 姉さんが、手拍子を始めた。 「あんた、昨日オイルをしこたま飲んだから、動きがいいじゃない。」 福之助は、踊りながら返事した。 「そうですねえ。」 福之助は、まるで何かにとりつかれたように踊っていた。 女の子は、手を叩きながら、笑って見ていた。 「わ〜〜、おもしろい、おもしろい!」 茶屋の老婆は、目を丸くして驚きの様子で、福之助を見ていた。 「あのロボット、狐(きつね)でも憑いたのかい?」 「ときどき、ああなるんです。なにかがとりつくんです。」 「高野山に行って、取ってもらったほうがいいよ。」 「そうですね。」 福之助は、我を忘れて狂ったように踊っていた。 女の子も、福之助の真似をして踊りだした。 隣のテーブルに座って、メッセンジャーを楽しんでいた白人の男も、 「オゥ〜、ショ〜ケン!」と言って、踊りだした。
猫も杓子も フラフラフララ〜 ♪ 右も左もフラフラ〜フララ〜 ♪ もうじき第三世界が来るぜ〜〜〜 ♪
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