方から、白装束(しろしょうぞく)を着た十人ほどの集団が、左手に手持ち太鼓、右手に撥(ばち)を持って叩きながら、 「もったいない、もったいない♪」と言って、やってきた。 アニーたちは、思わず端っこに避けた。 一番前を歩いていた男が立ち止まると、全員立ち止まった。 「ありがとうございます!」 男は、アニーのミニスカートを見ていた。 「そんな格好で、高野山まで行きなはるのかい?」 アニーは、軽くうなずいて答えた。 「はい。」 「蜂や熊に襲われんよう、気をつけなはれ。」 「はい。」 「あのロボットも、高野山に?」 「はい。」 その男は、珍しそうに福之助を見た。福之助は、軽く手を上げて挨拶した。 「われわれは、大日本ケチ教の者やさかい、ご心配なく。」 「大日本ケチ教?そんなのあるんですか。」 「ケチのケは、経済のケ。チは智恵のチ。覚えておくとええことがあります。」 「はい。」 「お金も命も、使えば減る。大切にケチって使いなはれ。」 「はい。」 「人は、あの世から来た、この世の御客さんや。金脈や人脈よりも大切なのは、霊脈なんや。」 「れいみゃく?」 「ああ、あの世と繋がってるのが、霊脈なんや。」 「はい。」 「綺麗な御足(おみあし)を、蜂に刺されんよう気をつけなはれ。」 「はい。」 「もったいない、もったいない♪」 彼らは、アニーたちが来た道を、太鼓を叩きながら早足で下って行った。 きょん姉さんは、首を傾げていた。 「大日本ケチ教だなんて、はじめて聞いたわ。」 「いろんなのがあるんですねえ。」 「スズメバチもいるんでしょう?」 「ええ、いますねえ。」 「用心して行きましょう。」 「ええ。やっぱり、ジーンズで来ればよかったわ。」 「アニーさん。私がアルミのボディで守ってあげますよ!」 姉さんが、茶化した。 「お前じゃ無理だよ。のろまだから。」 「そりゃあないよ、姉さん!」 「ありがとう、福之助さん。頼りにしてるわ。」 二キロほど進むと、葵茶屋(あおいじゃや)という、あずまや風の茶屋があった。 茶屋の両脇には、薄紫のコスモスの花が咲き、爽やかな秋風にゆらゆらと揺れていた。 老婆が出てきた。 「よもぎ団子は、いかがかのう?まだまだ、高野山までは遠くて大変だよ。」 アニーが止まった。 「どうします?」 きょん姉さんが返事をした。 「よもぎ団子ですか!?」 老婆が微笑んだ。 「まあ、せっかく通りかかったんだから、おいしい茶でも飲んで行きなされ。」 「それもそうね。なにかの縁ね。」 それを聞いて、アニーが注文した。 「じゃあ、三人分ください。」 「あいよ。」と言って、老婆はいなくなった。 「座りましょう。」 アニーが座ると、姉さんも福之助も座った。 隣のテーブルにはパソコンがあって、外国人の男女カップルが、英語で喋りながら笑いあって、インターネットのメッセンジャーで、無料テレビ電話をやっていた。 アニーは、福之助を見ていた。 「あっ、そっか。福之助さんはロボットだったわね。しまった。」 福之助は黙っていた。 「彼に持っていくか。」 姉さんは、横目で福之助を見ていた。福之助が口を開いた。 「それがいいです。」 老婆が、お盆の上に、皿に団子を載せて戻ってきた。木のテーブルの上に置いた。 「今、お茶、持って来るからね。」 老婆が、お茶を持って戻ってきた。 姉さんが、老婆に言った。 「このへんの山は、高い木も少なく明るくって歩きやすいですね。」 「このあたりは、高野山とは違って、雑木の山だからね。」 「けっこう人が歩いてるんですね。」 「一日に百人くらいは歩いてるね。」 「そんなに歩いてるんですか。」 「キャンプ場もあるからね。」 「夜は?」 「夜は、幽霊か修験者(しゅげんしゃ)だよ。」 「しゅげんしゃ?夜歩くんですか?」 「たまにね。」 「その方たちは、何をしてるんですか?」 「修行してるんだよ。」 「えっ?」 「闇夜の山々を歩く修行があるんだよ。」 「そんなのがあるんですか。凄い人がいるんだなあ。」 隣の外国人の女が、上手な日本語で注文した。 「二人分、ホットコーヒーくださ〜い。」 「はいよ。」と言って、老婆はいなくなった。 茶屋の中を、トンボが通り過ぎて行った。 隣の外国人の女が、日本語で不思議な歌を歌いだした。
秋になると〜 ♪ 赤トンボは人の狂った魂を拾いにやってくるの〜 ♪ それを拾った赤トンボは 川に下って落とすの〜 ♪
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