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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第35回   よもぎ団子の茶屋
方から、白装束(しろしょうぞく)を着た十人ほどの集団が、左手に手持ち太鼓、右手に撥(ばち)を持って叩きながら、
「もったいない、もったいない♪」と言って、やってきた。
アニーたちは、思わず端っこに避けた。
一番前を歩いていた男が立ち止まると、全員立ち止まった。
「ありがとうございます!」
男は、アニーのミニスカートを見ていた。
「そんな格好で、高野山まで行きなはるのかい?」
アニーは、軽くうなずいて答えた。
「はい。」
「蜂や熊に襲われんよう、気をつけなはれ。」
「はい。」
「あのロボットも、高野山に?」
「はい。」
その男は、珍しそうに福之助を見た。福之助は、軽く手を上げて挨拶した。
「われわれは、大日本ケチ教の者やさかい、ご心配なく。」
「大日本ケチ教?そんなのあるんですか。」
「ケチのケは、経済のケ。チは智恵のチ。覚えておくとええことがあります。」
「はい。」
「お金も命も、使えば減る。大切にケチって使いなはれ。」
「はい。」
「人は、あの世から来た、この世の御客さんや。金脈や人脈よりも大切なのは、霊脈なんや。」
「れいみゃく?」
「ああ、あの世と繋がってるのが、霊脈なんや。」
「はい。」
「綺麗な御足(おみあし)を、蜂に刺されんよう気をつけなはれ。」
「はい。」
「もったいない、もったいない♪」
彼らは、アニーたちが来た道を、太鼓を叩きながら早足で下って行った。
きょん姉さんは、首を傾げていた。
「大日本ケチ教だなんて、はじめて聞いたわ。」
「いろんなのがあるんですねえ。」
「スズメバチもいるんでしょう?」
「ええ、いますねえ。」
「用心して行きましょう。」
「ええ。やっぱり、ジーンズで来ればよかったわ。」
「アニーさん。私がアルミのボディで守ってあげますよ!」
姉さんが、茶化した。
「お前じゃ無理だよ。のろまだから。」
「そりゃあないよ、姉さん!」
「ありがとう、福之助さん。頼りにしてるわ。」
二キロほど進むと、葵茶屋(あおいじゃや)という、あずまや風の茶屋があった。
茶屋の両脇には、薄紫のコスモスの花が咲き、爽やかな秋風にゆらゆらと揺れていた。
老婆が出てきた。
「よもぎ団子は、いかがかのう?まだまだ、高野山までは遠くて大変だよ。」
アニーが止まった。
「どうします?」
きょん姉さんが返事をした。
「よもぎ団子ですか!?」
老婆が微笑んだ。
「まあ、せっかく通りかかったんだから、おいしい茶でも飲んで行きなされ。」
「それもそうね。なにかの縁ね。」
それを聞いて、アニーが注文した。
「じゃあ、三人分ください。」
「あいよ。」と言って、老婆はいなくなった。
「座りましょう。」
アニーが座ると、姉さんも福之助も座った。
隣のテーブルにはパソコンがあって、外国人の男女カップルが、英語で喋りながら笑いあって、インターネットのメッセンジャーで、無料テレビ電話をやっていた。
アニーは、福之助を見ていた。
「あっ、そっか。福之助さんはロボットだったわね。しまった。」
福之助は黙っていた。
「彼に持っていくか。」
姉さんは、横目で福之助を見ていた。福之助が口を開いた。
「それがいいです。」
老婆が、お盆の上に、皿に団子を載せて戻ってきた。木のテーブルの上に置いた。
「今、お茶、持って来るからね。」
老婆が、お茶を持って戻ってきた。
姉さんが、老婆に言った。
「このへんの山は、高い木も少なく明るくって歩きやすいですね。」
「このあたりは、高野山とは違って、雑木の山だからね。」
「けっこう人が歩いてるんですね。」
「一日に百人くらいは歩いてるね。」
「そんなに歩いてるんですか。」
「キャンプ場もあるからね。」
「夜は?」
「夜は、幽霊か修験者(しゅげんしゃ)だよ。」
「しゅげんしゃ?夜歩くんですか?」
「たまにね。」
「その方たちは、何をしてるんですか?」
「修行してるんだよ。」
「えっ?」
「闇夜の山々を歩く修行があるんだよ。」
「そんなのがあるんですか。凄い人がいるんだなあ。」
隣の外国人の女が、上手な日本語で注文した。
「二人分、ホットコーヒーくださ〜い。」
「はいよ。」と言って、老婆はいなくなった。
茶屋の中を、トンボが通り過ぎて行った。
隣の外国人の女が、日本語で不思議な歌を歌いだした。

 秋になると〜 ♪
 赤トンボは人の狂った魂を拾いにやってくるの〜 ♪
 それを拾った赤トンボは 川に下って落とすの〜 ♪





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