「並列に走ったら危ないので、直列に並んで走ってください!」 後方で横に並んで走っていた、きょん姉さんと福之助に、アニーは注意を促した。 二人は、「はい。」「はい。」と、子供のように素直に答えた。 「お前、ドジだから先に行きな。」 「はい。」 「国道370は、クルマが多いので、途中で左に曲がって丹生川(にうがわ)沿いの道を走ります。」 きょん姉さんも、福之助も道が分からないので、「はい。」「はい。」と答えた。 少し走ると、川幅は広くなり、盆地のように景色が開けてきた。 そこには日本の原風景のような稲田が広がっていて、稲刈りが終わった田んぼには稲垣が築かれ、赤い彼岸花が咲き乱れていた。その周りには柿の木やイチジクの木があり、果実をつけて秋の景色を飾っていた。 姉さんは、思わず感激した。 「ぅわ〜〜〜、素敵な風景だわ〜!」 アニーは、鉄筋の小さな学校の前でセグウェイを止めた。門には、河根(かわね)小学校とあった。 校舎の窓から、ピアノの音色と生徒の歌声が聞こえていた。校歌を歌っていた。なぜか、アニーも小さな声で歌いだした。
明るいひとみ 寄るところ はるかに遠く 雪池を〜 ♪ 望み豊かに 河根の子は 塩生(しおふ)の里に 育つ鳥〜 ♪ 羽音も高く 舞い昇る 呼び交わしつつ 舞昇る〜 ♪
姉さんは、びっくりした。 「あれ、どうして知ってるんですか?」 「この学校を卒業したんです。」 「そうだったんですか。」 「昨日、挨拶に訪ねて行ったんですが、生徒数が十人になっていました。」 「全校生徒数がですか?」 「ええ、わたしが卒業したころは、三十五人いたんですよ。」 アニーは悲しい目をして、懐かしそうに校庭を眺めていた。 「すみません、私事で引き止めてしまって。さあ、行きましょう!」 マイクロバスが、学校の前で止まった。 「このバス、この道を左に曲がって、学文路(かむろ)に行くんです。わたしたちは、右に曲がります。」 右に曲がると、丹生神社という、小さな神社があった。神社の周りは、キャンプ場を兼ねた公園になっていた。 アニーは、神社の前で止まった。 「よく、この神社の前を、友達と手をつないで、歌いながら歩いたわ。」 そう言うと、歌いながら走り出した。
夕空晴れて秋風吹き〜 月影落ちて鈴虫鳴く〜 ♪ 思へば遠し故郷の空〜 ああ 我が父母いかにおはす〜 ♪
「あっ、そうだ。忘れてたわ。」 アニーは、上着のポケットから鈴を三つ取り出した。 「はい、これを腕に巻いてください。熊よけです。」 きょん姉さんは、びっくりした。 「熊が出るんですか?」 「かもしれません。」 左側には、丹生川が大きくカーブしながら、川幅を広げて流れていた。 きょん姉さんが、鼻を川に向けた。 「うん、漬け牛カルビ焼肉の匂いだ!」 クレソンの生えている、小石のある河原で、数人の人々が楽しそうにバーベッキューをやっていた。 アニーは、スピードを緩めた。 「漬け牛カルビ焼肉って、匂いで分かるんですか、凄いなあ〜?」 「あの匂いは、漬け牛カルビ焼肉です。」 「そうなんですか、犬みたいな凄い鼻ですねえ。ここらあたりは、キャンプ場になってるんですよ。」 「あっ、あっちでは魚を焼いてる。」 「鮎(あゆ)ですね。」 「鮎(あゆ)の塩焼きですね。それにしても、お年寄りが多いんですねえ。」 「最近、多いらしいですよ。今頃、暇な人は老人だけでしょう。」 「そうですね。」 福之助が、指差した。 「なんだ、あれ?」 「あれは、キャンプ場の水力発電船です。」 両岸から固定された、水力発電船が大きな水車を回していた。 アニーは走り出した。そして校歌を歌いだした。
緑の風の吹く窓に〜 たゆまず励み 胸を張る〜 ♪ 元気あふれる 河根の子は 丹生の川瀬に 育つあゆ〜 ♪ 銀鱗(ぎんりん)映えて 明日を呼ぶ 目覚める眼 明日を呼ぶ〜 ♪
|
|