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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第30回   ぐでんぐでん
「半分露天風呂に入ってたら、狸かアライグマが出てきて、何かを洗って行ったよ。びっくりしちゃったぁ!」
きょん姉さんは、ひょうきんな顔で戻ってきた。
「あれっ、誰もいない。」
部屋には、誰もいなかった。」
「上を向いてると、雨を見てると神秘的な気分になっちゃてさ〜。」
やっぱり、誰もいなかった。
「そうか、潤滑オイルを飲みに行ったんだ。」
姉さんは、浴衣姿になっていた。
「どこでやってんだろう?」
廊下に出て探し始めた。廊下には、六部屋あったが、どの部屋も声はしていなかった。
「おっかしいなあ・・」
庭があって、隣の建物に続く渡り廊下があった。庭の中ほどに、かわいい一階建の家があった。灯りがついて、カラオケが鳴っていた。
「あそこだな。」
そこまで、屋根つきの渡り廊下がつながっていた。
ドアには、カラオケ堂と書いてあった。
「からおけどう…」
姉さんは、トントントンとノックした。中から、ひょっとこ丸の声がした。
「どうぞ、お入りください。」
姉さんは、ドアを開けた。二人は歌っていた。

 風に気ままな 千鳥足 夢見心地の旅に出る 〜♪
  ああ ぐでん ぐでん 俺とお前は ぐでん ぐでん 〜♪
    廻り道でも 道は道 はるか どっかにたどりつく 〜♪

 あの娘生れは 天ビン座 恋をはかりに かけた人 〜♪
  未練はないさと つよがれば ホレていたのね 胸にしむ 〜♪
 ああ ぐでん ぐでん 俺とお前は ぐでん ぐでん 〜♪

 思い出すたび ほろにがい あんときゃおまえと迎え酒 〜♪
  ああ ぐでん ぐでん 俺とおまえは ぐでん ぐでん 〜♪
   今はなんにもできねえが いつかお返し するつもり 〜♪

 人の心が川ならば 俺とおまえは 酒の川 〜♪
   夢も涙も この酒に 流し流され 生きて行く 〜♪
     ああ ぐでんぐでん 俺とおまえは 酒の川 〜♪

姉さんは、中には入らず、黙って聞いていた。
福之助は楽しそうだった。

  もしもこの俺つぶれたら ひょっと丸が かついで帰るだろう 〜♪
     ああ ぐでんぐでん 俺とおまえは ぐでんぐでん 〜♪

ひょっとこ丸は、楽しそうだった。

  もしもこの俺つぶれたら 服之助が かついで帰るだろう 〜♪
     ああ ぐでんぐでん 俺とおまえは ぐでんぐでん 〜♪

姉さんは、静かにドアを閉めた。庭の常夜灯の下で、狸の親子が、秋雨に打たれながら佇(たたず)んでいた。
ノスタルジックな思いが、込み上げてきた。
「日本の秋だねえ…」
本堂の方から、法衣を纏(まと)った住職が歩いてきた。秋雨とぼんやりと語らってる、きょん姉さんを見た。
「どうかいたいましたかな?」
きょん姉さんは、我に返った。
「いえ、べつに。」
「どんな些細なことでも、ご相談ください。心にかかることがあると、身体に影響します。ご自身の人生を振り返り、あるべきありのままの人生を歩むための言葉を捜してあげます。」
きょん姉さんは、嬉しかった。
「ありがとうございます。」
「他の仏教のように、教えたり、諭すことは極力致しません。」
「はっ?」
「一緒に悩ませてください。」
「一緒にですか?」
住職は、大きく頷いた。
「はい。一緒に悩ませてください。」
「それが、真言密教ですか?」
「はい。それが、お大使さまの真言密教です。」
「一緒に悟ることができるんですか?」
「その必要はありません。なぜなら人は、生まれながらに悟っているのです。」
「え〜〜〜、うそ〜〜!?」
「あなたは、今まで勘違いをして生きてきたのです。」
「え〜〜〜!?」
「あの紫陽花(あじさい)のように。」
姉さんは、住職の視線に目を移した。
そこには、勘違い紫陽花(あじさい)が、赤く咲いていた。
「ほんとだ。なんで今頃?」
「おそらく、温暖化で勘違いして咲いたのです。人は皆、悩み勘違いしながら生きています。」
「そうかも知れない。」
「自然、つまり大宇宙を感じると、人は清らかで素直な心になります。」
「そうですね。」
「それが、大日如来の波動です。」
「だいにちにょらい…」
ほのかな、線香の香りが漂っていた。


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