「兄貴、パトカーだ。」 警官が二人出て、道路をカメラで撮影していた。 「あれは、交通事故の後の現場検証だな。」 「ああ、良かった。」 「だったら、もうじき終わるよ。」 「じゃあ、ここでジュースでも飲んで待っていようよ。」 「そうだな。」 二人は大きな木の下に座り込んだ。バッグから缶ジュースを二本取り出し飲み始めた。 「オレンジジュースか。」 「もうないよ。」 十五分ほどで、パトカーはいなくなった。その間、クルマは一台も通らななかった。 「アキラ、行こうか!」 「どっちに行くの。」 登る方向を指差した。 「登りじゃ〜ん、いやだなあ。」 「大した登りじゃないよ、」 「舗装はしてあるけど、寂しい道だねえ。」 「そうだなあ。」 「歩いて行くの、ず〜〜っと。」 「しょうがねえだろう。」 「パトカーが来たら、やばいんじゃないの。」 「そうだなあ。」 「ヒッチハイクでもしようよ。」 「止まらないよ、こんなとこじゃあ。」 「なんで?」 「男二人じゃ、怪しんで止まらねえよ。」 「そういうもんなの。」 「そういうもんだよ。」 ショーケンは、携帯電話の電源を入れ、地図を見た。 「ここを真っ直ぐ行くと、下市町という町に着くな。」 「どのくらい?」 「8キロかな。」 「8キロ!わぁ〜大変だ。パトカーが来たら終わりだね。」 「タクシーとかは、走ってるわけがないしな。」 「こんなとこ、走ってないよ。」 <事故多し、スピード落とせ!>の看板があった。 「アキラ、救急車を呼ぼう。」 「なんだって?」 「携帯で救急車を呼ぶんだよ。」 「えっ、どういうこと!?」 「町まで運んでもらうんだよ。」 「町まで、救急車で。」 「お前、携帯で電話しろ。」 「なんて電話するの?」 「友人とハイキングをしてたら、友人が野イチゴを食べて腹痛を起こして倒れたって。」 「そんな嘘ついていいのぉ?」 「俺たち以外には分かんねえよ。」 「救急車って、お金取られるんじゃないの。」 「知ってるよ。」 ショーケンは、アキラに携帯電話を手渡した。 「県道215号線の貝原地区って言うとこだ。場所を、ちゃんと言えよ。」 遠くに、風力発電の風車が見えていた。 「ああ、分かった。」 アキラは、電話した。 「兄貴、すぐ来るって。」 「じゃあ、ここに座って待っていよう。」 「パトカー来ないかなあ?」 「そんときは、そんときだ。」 「なにか方法があるんだ。」 「ああ。」 十五分ほど待ったら、サイレンが聞こえてきた。 「兄貴、来たよ!」 ショーケンは、狭い歩道にうずくまった。アキラが大きく手を振った。 救急車は、彼らの前で止まった。 助手席から一人、救急隊員が出てきた。 「こちらの方ですか?」 アキラが言った。「そうです。」 ショーケンは、「いたたたた・・」と、苦しそうにうなっていた。 「歩けますか。」 ショーケンは「ええ、なんとか。」と答えた。 後ろのドアから、別の救急隊員が出てきた。先に出た隊員に「担架、出そうか。」と尋ねた。 ショーケンが、「大丈夫、歩けます。」と言うと、腹部を押さえながら自分で歩き出した。 救急車は、町の病院に向かって走り出した。サイレンが山々に鳴り響いた。 直後に、頭脳警察の猿狩り小次郎が上空を通り過ぎて行った。 どうにかなるさの、しゃら♪らららららら♪の風が吹いていた。
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