「女とか、家族とか、家とか、そういうものに騙されて、男は一生懸命に働く。」 「そうですねえ。」 「そんなものは、みんな、神様の罠なんだよなあ。」 「罠…?」 「神のトリック。」 「神のトリック…」 「動物は、食べないと生きて行けないでしょう。だから、味覚という快感を与えたんだよ。」 「なるほど…」 「味覚がないと、動物は食べなくなって死んでしまうから。」 「な〜るはど。ショーケンさんは面白いこと言いますねえ。」 龍次は、感心して聞いていた。 黙って聞いていたアキラが、横から口を挟んだ。 「ま〜〜た、始まったよ。兄貴の超変な理屈が。」 龍次は遮った。 「いや、面白いよ。ショーケンさんの論法は。斬新で奇抜な考えだよ。」 「そうかなあ〜〜。変わってるだけじゃないの。」 「ショーケンさんは、天才の感性を持っているよ。」 「そうかな〜〜。」 ショーケンが、アキラを睨んだ。 「おまえ、うるさいんだよ!バカには天才が見えないの。」 外は大雨で、雷鳴が轟いていた。 「つまり、すべての本能は、神のトリックってわけですね。」 「そういうことかな。」 「なるほどぉ〜。」 アカデミックな龍次には、ショーケンの考えは意表をつく論法だった。 「王手飛車取りみたいな考えですねえ。」 「おおてひしゃとり?」 アキラが得意そうに言葉を入れた。 「王手飛車取りは、得意だよ。」 「おまえ、将棋だけは、不思議と強いんだよな。」 龍次が、目を大きく開けた。 「ほ〜〜〜、それはいいなあ。わたしも強いんですよ。後でやりましょうか。」 「あ〜〜、いいよ。手加減しないよ。」 「わたしも、勿論ですよ。」 奥のほうから、声がして、女性が二人入ってきた。 「栗ご飯と、鮎の塩焼きです。」 そう言うと、お盆の上のものを、テーブルの上に並べた。並べ終わると、女性は、即座に戻って行った。 別の女性が入ってきた。 「松茸のお吸い物です。」 龍次が、「ありがとう。」と、その女性に言った。 アキラは、松茸の匂いに反応した。 「松茸!」 アキラを見ながら、龍次は微笑んでいた。 「この前、みんなと山の奥に入って取ってきたんですよ。」 「松茸が取れるんだ。」 「沢山取れたので、お世話になってる高野山の方々に配りました。」 「ラッキー!いいときに来たってことだ。」 「そうですね。」 女性は、戻ろうとした。龍次が止めた。 「ちょっと、待って。」 「はっ、何でしょうか?」 「眠り姫さんは、確か、横須賀だったね?」 「はい。」 「この人達も、横須賀なんだよ。」 眠り姫は、二人を見た。女性は、頭を下げた。 「横須賀の、どの辺りですか?」 アキラが答えた。 「浦賀。」 「わたし、観音崎(なんのんざき)です。」 「ああ、そうなの。兄貴は、育ちは横須賀だけど、生まれは不明。」 龍次が答えた。 「ショーケンさんは、大菩薩だよね。」 ショーケンは、びっくりした。 「えっ、なんで知ってんの?」 「ショーケンさんのことだったら、何でも知ってますよ。」 「え〜〜、気持ち悪いなあ!」 「兄貴は、有名人だからな。」 男が入ってきた。 「先生。セグウェイに乗った、変なロボットが、先生の弟子にしてくれと来ています。どうしましょう?」 龍次は、顔をしかめた。 「ロボット!?」龍次の声は、裏返っていた。
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