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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第23回   案内犬ゴン
アニーは、門から慈尊院(じそんいん)の中に入って行った。
「中に入って行ったよ。」
「宿坊になってるんですよ。」
慈尊院(じそんいん)の前の道路を、並列二輪の白い電動セグウェイに乗った、レインコートの巡回パトロールの警官が、ゆっくりと走って行った。
それから、青い電動セグウェイに乗ったロボットが、ひたすらに前を見ながら通り過ぎて行った。
「姉さん、今のロボット、紋次郎みたいだったんですけど…」
「まさか、こんなところに来るわけないよ。」
「そうですね。」
「高野山(こうやさん)だよ、ここは。」
「こんなところに、横須賀からロボットが来るわけありませんよね。」
「ロボットは顔が同じだからね。きっとロボット違いだよ。」
「そうですね。」
「ここまで来たんだから、ちょっと慈尊院(じそんいん)を見物して行くか。」
「そうですね。」
きょん姉さんと、福之助は水燃料自動車サイドワインダーから外に出た。姉さんは、傘をさしていた。
「あんたは、アルミボディだから、いいねえ。」
「はい。」
土塀があり、門があった。
「なんだか、クラシカルな塀だねえ。」
「日本で一番古くて、法隆寺の土塀より古いものだそうです。」
「ふ〜〜〜ん、そうなの。」
「慈尊院(じそんいん)も、高野山の世界遺産のなかに入っています。」
「ああ、そうなの。」
門には、高野山真言宗・慈尊院(じそんいん)と書かれてあった。
「こうやさん、しんごんしゅう、…真言密教とは違うの?」
「真言密教を、真言宗と言います。」
「ああ、そうなの。なっんだか、仏教の世界って、ややっこしいねえ。さっぱり分からないよ。」
「そうですね。」
門をくぐると、二重の大きく立派な塔があった。
「これだね、外から見えてたのは。」
「はい。多宝塔と書いてあります。」
「ここに、空海の母親がいたんだ。」
「ここじゃないと思います。」
「あっちにも、大きな建物があるよ。」
「本堂だと思います。おそらく、あそこにいたんじゃないでしょうか。」
「そうだね。本堂の隣の新しそうな建物はなんなんだい?」
「おそらく、宿坊だと思います。」
「アニーさんは、あそこに泊まってるんだあ。」
「おそらく。」
「行ってみますか?」
「今日は、いいよ。もし出遭ったら、想定外になっちゃうから。」
「そうですか。」
「明日の朝十時に会う約束だからね。」
「そうですね。」
「なに、あれ?」
「…屋台ですね。九度山ラーメンって書いてあります。」
「なんで、こんなところに、屋台があんだ?」
「さぁ〜〜あ、なんででしょう?」
屋台には大きな屋根がついていた。そして、小雨のなかに寂しく世捨て人のように佇んでいた。
茶髪の柿色の忍者姿の若者が、空を見上げながら客を待っている様子だった。
「姉さん、忍者ですよ。」
「そうだね…」
忍者が、二人を見た。
「九度山の湧き水で作った、九度山忍者ラーメンは、いかがですか?」
きょん姉さんを見て、微笑んだ。
「忍者ラーメン?」
「はい。山の幸が沢山入っています。」
「あいにく、今日は時間がないので。」
「そうですか。」
「暖かいお茶とか、あります?」
「ありますよ。高野山のミネラル緑茶が。」
「じゃあ、それください。」
「はい。」
姉さんは、台の上に百円玉を置いた。
屋台から少し離れたところに、人と犬の石像があった。
「はい、高野山ミネラル緑茶です。」
カップラーメンのような紙容器に注がれていた。
姉さんは、一口飲んだ。
「おいしいわね。」
「ありがとうございます。」
「あの石像は、誰なんですか?」
「弘法大師です。」
「こうぼうだいし…、となりの犬は?」
「案内犬のゴンです。」
「案内犬のゴン?」
「昭和六十年代に、白い野良犬が、勝手に参詣者を高野山に案内するようになったんです。」
「不思議な犬ですねえ。」
「はい、小説や映画にもなりました。」
「そうなんですか、はじめて知りました。」
「慈尊院から聞こえる鐘の音を好んでいたため、いつしかこの野良犬は、ゴンと呼ばれるようになったんです。」
「案内犬のゴン…、会ってみたかったわ。」
「弘法大師も、犬に丹生明神(にうみょうじん)まで連れて行かれ、高野山を譲り受けたという伝説があるんですよ。」
「それは、偶然とは言え、不思議ですねえ。その本は、どこで売ってるんですか?」
「インターネットのアマゾン書店で売ってます。」
「本のタイトルは?」
「高野山の案内犬ゴン、山道20キロを歩きつづけた伝説のノラ犬、だったかな。」
きょん姉さんは、福之助を見た。
「記録しといて。」
福之助は、「はい。」と答え、復唱した。
「高野山の案内犬ゴン、山道20キロを歩きつづけた伝説のノラ犬、ですね。」
それから、茶髪の忍者を見た。忍者は福之助を見ながら答えた。
「うん、そうだよ。」
モンペをはいた老婆がやってきた。
「宿坊の客に、ラーメンをひとつ、たのむよ。」
「はい。」
「できたら、とどけておくれ。」
「はい。」
忍者の若者は、ラーメンを作りはじめた。
「いろいりと教えてくれて、ありがとう。」
「どういたしまして。」
姉さんと福之助は、石像の前まで行った。
「弘法大師か…」
「空海のことですよ。」
「ああ、そうなの。」
日が暮れかけていた。
「われわれも、宿を急ごう。」
「はい。」
二人は、慈尊院(じそんいん)の門を出た。
茶髪の忍者は、二人を見ていた。携帯電話を取り出した。
「チェックメイトキング・ツー、こちら、卍根来(まんじねごろ)セブン、…」



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