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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第22回   九度山のアニー
五分後、きっかりに、福之助は目を覚ました。
「再起動シマシタ。」
姉さんは、カーナビを見ていた。
「じゃあ、行こうか。」
「ハイ。」
水燃料自動車サイドワインダーは、駐車場を出た。
「大門を真っ直ぐ行くんだね。」
「ソウデス。」
お寺の鐘が、高野山に鳴り響いていた。
「あれは、どこの鐘なんだい?」
「龍光院ノ六時の鐘デス。」
「この鐘の音、お香の匂い、なにもかもが神秘的な風景だねえ。」
「ハイ。」
朱色の大門の左右の仁王が、通り過ぎるクルマを大きな目で睨んでいた。
フロントガラスに、雨粒が当った。
「あっ、雨だ。」
「雨デス。」
「このまま下って行けばいいんだね。」
「ハイ。高野山道路ヲクダレバ、国道370号ニ出マス。」
夕陽が紀淡海峡や淡路島、四国望む風景を茜色に染めていた。
「わぁ〜〜、綺麗な景色!こりゃあ、天国からの眺めだよ。」
「ココカラノ眺メハ、世界文化遺産ニモナッテイマス。」
「こんな風景が、日本にもあったんだねえ〜。」
「ハイ。」
「もうすぐ、紅葉だねえ。」
「ハイ。」
「宿を探さないといけないね。どっか、いいとこないかなあ。」
「…アリマス。」
「どこ?」
「ソウイウトコロデ働イテル友ロボットガ、コノ近クニイルンデス。」
「友ロボット。そんなのがいるの?」
「ハイ。訓練所デ一緒ニ学ンデイタ友ロボットデス。」
「どこにいるの?」
「学文路(カムロ)トイウ所ニイマス。」
「じゃあ、そこに行こう。」
「高野下(コウヤシタ)マデ行ってクダサイ。」
「分かった。」
「ハイ。南海電気鉄道高野線の学文路(カムロ)駅ニ行ッテクダサイ。」
「この道を行けばいいんだね。曲がる前に教えてよ。」
「ハイ。」
携帯電話が鳴った。
「あっ、電話だ!」
きょん姉さんは、クルマを路肩に静かに止めると、電話を取った。
「もしもし…」
「あっ、地球刑事アニーさんですか。ほじめまして。」
「慈尊院(じそんいん)ですね。あっ、はい。分かりました。」
きょん姉さんは、電話を切った。
「地球刑事アニーからだよ。九度山の慈尊院(じそんいん)にいるらしい。」
「九度山(くどやま)デスカ、ココモ九度山(くどやま)デスヨ。」
福之助は、カーナビを睨んだ。
「慈尊院(じそんいん)ハ、コノ先ヲ左ニ曲ガッタトコロニアリマス。右ニマガルと学文路(カムロ)デス。」
「じゃあ、ちょっと、見に行こう。」
「ハイ。」
「あんた、もういいよ。聞き苦しいから、感情機能をオンに戻して。標高が低いから、カミナリは大丈夫だよ。」
「命令シテクダサイ。」
「福之助、感情機能オン!」
「感情機能を回復しました!」
カーナビの画面に、インターネット経由の地球刑事アニーの写真が映し出された。
福之助は驚いた。
「どひゃ〜〜、美形〜!」
「極端に変わるね、お前って。」
「わたしの中のプログラムが悪いんです。」
サイドワインダーは、左に曲がり、慈尊院(じそんいん)に向かった。
「山は、カミナリさんが怒っていたのに、下は静かだねえ。」
右側に、お寺みたいなのが見えた。
「あれ、お寺?」
「真田庵です。」
「真田幸村と関係あるのかな?」
「はい。真田屋敷跡に建てられたものです。」
「そうなんだ。いろいろあるんだね、ここら辺りには。」
「はい。」
福之助は、鈍く光るアルミ指をさした。左側に、お寺が小雨降るなかに凛(りん)と建っていた。
「あっ、あそこです。」
「大きな、お寺だねえ〜!」
姉さんは、お寺の駐車場にクルマを止めた。
「高齢の空海の母親が、息子を一目見ようと高野山にやってきて、行けずに滞在していた有名な寺です。」
「ふ〜〜ん、なんで行けなかったの?」
「その頃の高野山は、女人禁制だったんです。」
「そうなんだ。」
「そこで空海は、月に九度、母に会いに山から下りてきたそうです。だから、九度山と言うんだそうです。」
「そうなの、ふ〜〜ん。あんたロボットなのに、人間のことに詳しいんだねえ。」
「どういたしまして。」
「いいなあ〜、お寺と雨の風景…」
「警備員が、こちらを見てます。」
「クルマを見てんだろう。大変だねえ、立ちっぱなしで。」
「わたしだったら、1週間は立っていられますよ。」
「あんた、凄い根性してるねえ。」
道路を、傘を差しながら、短いスカートで歩いているスレンダーな女性がいた。
「あっ、あの超アニメチックな人、アニーさんじゃない。」
「そうですね。ぅわ〜、かっこいいなあ〜。」
「あんた、タイプなの?」
「タイプと言えば、タイプかも・・」
「ふ〜〜〜ん。」
「前々から、華麗な蹴りを受けてみたいと思ってたんですよ。」
「おまえ、変態ロボットだろう?まえまえから怪しいと思っていたけど。」
「そうかも知れません。」
福之助は、目玉をまわしながら頭を左右に振った。ガキッガキッっと、壊れそうな音がした。姉さんは、不気味に驚いた。
「あ〜〜、気持ち悪ぃ〜!」



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