五分後、きっかりに、福之助は目を覚ました。 「再起動シマシタ。」 姉さんは、カーナビを見ていた。 「じゃあ、行こうか。」 「ハイ。」 水燃料自動車サイドワインダーは、駐車場を出た。 「大門を真っ直ぐ行くんだね。」 「ソウデス。」 お寺の鐘が、高野山に鳴り響いていた。 「あれは、どこの鐘なんだい?」 「龍光院ノ六時の鐘デス。」 「この鐘の音、お香の匂い、なにもかもが神秘的な風景だねえ。」 「ハイ。」 朱色の大門の左右の仁王が、通り過ぎるクルマを大きな目で睨んでいた。 フロントガラスに、雨粒が当った。 「あっ、雨だ。」 「雨デス。」 「このまま下って行けばいいんだね。」 「ハイ。高野山道路ヲクダレバ、国道370号ニ出マス。」 夕陽が紀淡海峡や淡路島、四国望む風景を茜色に染めていた。 「わぁ〜〜、綺麗な景色!こりゃあ、天国からの眺めだよ。」 「ココカラノ眺メハ、世界文化遺産ニモナッテイマス。」 「こんな風景が、日本にもあったんだねえ〜。」 「ハイ。」 「もうすぐ、紅葉だねえ。」 「ハイ。」 「宿を探さないといけないね。どっか、いいとこないかなあ。」 「…アリマス。」 「どこ?」 「ソウイウトコロデ働イテル友ロボットガ、コノ近クニイルンデス。」 「友ロボット。そんなのがいるの?」 「ハイ。訓練所デ一緒ニ学ンデイタ友ロボットデス。」 「どこにいるの?」 「学文路(カムロ)トイウ所ニイマス。」 「じゃあ、そこに行こう。」 「高野下(コウヤシタ)マデ行ってクダサイ。」 「分かった。」 「ハイ。南海電気鉄道高野線の学文路(カムロ)駅ニ行ッテクダサイ。」 「この道を行けばいいんだね。曲がる前に教えてよ。」 「ハイ。」 携帯電話が鳴った。 「あっ、電話だ!」 きょん姉さんは、クルマを路肩に静かに止めると、電話を取った。 「もしもし…」 「あっ、地球刑事アニーさんですか。ほじめまして。」 「慈尊院(じそんいん)ですね。あっ、はい。分かりました。」 きょん姉さんは、電話を切った。 「地球刑事アニーからだよ。九度山の慈尊院(じそんいん)にいるらしい。」 「九度山(くどやま)デスカ、ココモ九度山(くどやま)デスヨ。」 福之助は、カーナビを睨んだ。 「慈尊院(じそんいん)ハ、コノ先ヲ左ニ曲ガッタトコロニアリマス。右ニマガルと学文路(カムロ)デス。」 「じゃあ、ちょっと、見に行こう。」 「ハイ。」 「あんた、もういいよ。聞き苦しいから、感情機能をオンに戻して。標高が低いから、カミナリは大丈夫だよ。」 「命令シテクダサイ。」 「福之助、感情機能オン!」 「感情機能を回復しました!」 カーナビの画面に、インターネット経由の地球刑事アニーの写真が映し出された。 福之助は驚いた。 「どひゃ〜〜、美形〜!」 「極端に変わるね、お前って。」 「わたしの中のプログラムが悪いんです。」 サイドワインダーは、左に曲がり、慈尊院(じそんいん)に向かった。 「山は、カミナリさんが怒っていたのに、下は静かだねえ。」 右側に、お寺みたいなのが見えた。 「あれ、お寺?」 「真田庵です。」 「真田幸村と関係あるのかな?」 「はい。真田屋敷跡に建てられたものです。」 「そうなんだ。いろいろあるんだね、ここら辺りには。」 「はい。」 福之助は、鈍く光るアルミ指をさした。左側に、お寺が小雨降るなかに凛(りん)と建っていた。 「あっ、あそこです。」 「大きな、お寺だねえ〜!」 姉さんは、お寺の駐車場にクルマを止めた。 「高齢の空海の母親が、息子を一目見ようと高野山にやってきて、行けずに滞在していた有名な寺です。」 「ふ〜〜ん、なんで行けなかったの?」 「その頃の高野山は、女人禁制だったんです。」 「そうなんだ。」 「そこで空海は、月に九度、母に会いに山から下りてきたそうです。だから、九度山と言うんだそうです。」 「そうなの、ふ〜〜ん。あんたロボットなのに、人間のことに詳しいんだねえ。」 「どういたしまして。」 「いいなあ〜、お寺と雨の風景…」 「警備員が、こちらを見てます。」 「クルマを見てんだろう。大変だねえ、立ちっぱなしで。」 「わたしだったら、1週間は立っていられますよ。」 「あんた、凄い根性してるねえ。」 道路を、傘を差しながら、短いスカートで歩いているスレンダーな女性がいた。 「あっ、あの超アニメチックな人、アニーさんじゃない。」 「そうですね。ぅわ〜、かっこいいなあ〜。」 「あんた、タイプなの?」 「タイプと言えば、タイプかも・・」 「ふ〜〜〜ん。」 「前々から、華麗な蹴りを受けてみたいと思ってたんですよ。」 「おまえ、変態ロボットだろう?まえまえから怪しいと思っていたけど。」 「そうかも知れません。」 福之助は、目玉をまわしながら頭を左右に振った。ガキッガキッっと、壊れそうな音がした。姉さんは、不気味に驚いた。 「あ〜〜、気持ち悪ぃ〜!」
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