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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第21回   高野山ラーメン
遠くで稲妻が光り、雷鳴が曇り空の上空に轟いていた。
「姉さん、カミナリさまがやって来ましたよ!」
「嵐が来るみたいだね。」
「早く、ここから逃げましょう!」
「どこに逃げんだよ。」
「ここは、高いから危ないです。もっと低い場所に移動しましょう。」
「…そうだね。」
福之助は、やたらと脅(おび)えていた。
またも、稲妻が曇り空に走り雷鳴が轟いた。
「お〜〜、くわばらくわばら・・」
「桑原・・、あんた江戸時代のロボットか?」
「そんなことはどうでもいいです。早く行きましょうよ〜!」
「ロボットは、感電すると、お陀仏だからな。」
「早く行きましょう!」
「分かったよ。」
姉さんは、アクセルを踏み込んだ。サイドワインダーは、まるで蛇のように滑りながら加速した。
「このクルマ、相変わらず気持ち悪いなあ〜。」
雨は、まだ降ってはなかった。姉さんは、安全のためにフォグランプを点灯した。
「姉さん。あそこの変な四輪の自転車に乗ってるの、龍次です。」
「そう?あんた、目いいねえ。」
「視力7.0ですから。」
姉さんは、スピードを落とした。
「このままだと、見つかりますよ。」
「スモークウィンドウにしよう。」
姉さんがダッシュボードの操作ボタンを押すと、透明だったウィンドウは、一瞬にして薄茶色の半透明ウィンドウになった。
「これで、向こうからは見えないよ。」
「凄いですね、これ。」
「色も変えられるんだよ。」
「凄いなあ。」
「やってみようか。」
「今は、そんなことはどうでもいいですよ。かえって、彼らに怪しまれますよ。」
「そうだな。やっぱ、あんた冷静だね。」
「ロボットですから。」
彼らは、四輪自転車を漕ぎながら、サイドワインダーを見ていた。
姉さんは、集音マイクのスイッチを入れた。彼らの声が、ダッシュボードのスピーカーから聞こえていた。
「おお〜、凄いクルマだなあ。」ショーケンの声だった。
「こんなの見たことねえや。」アキラの声だった。
「水燃料自動車だ。」龍次の声だった。
サイドワインダーは、水蒸気を吐き出しながら、ガラガラと妙な音を出して、のろのろと通過して行った。
「この集音機能、いいですねえ。」
「こういうときには、便利だね。逆もできるんだよ。」
「逆?」
「ここから、外に向かって注意したり、会話したりできるんだよ。」
「それはいいや。」
神鳴りの音が近づいていたが、まだ雨は降っていなかった。
「一の橋から右に曲がると、大門に戻ります。そのまま大きな通りを下って行けば大丈夫です。」
「分かった。」
直ぐに大通りに出た。
「ここを右だね。」
「はい。」
大勢の観光客が、時折上空を見上げながら歩いていた。
「夕暮れなのに、人が多いねえ。」
「そうですねえ。」
「外国人が多いねえ。」
「そうですねえ。」
五十人くらいの、お坊さんのらしい人々が静かに行儀よく歩いていた。
「お坊さんだ。」
「そうですねえ。カミナリが近づいてますよ、姉さん!」
「うるさいねえ、カミナリ、カミナリって!」
「早く行きましょうよ!」
「ここの、お坊さんって、歩きながら南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)とか、ちっとも言わないね。」
「真言密教には、念仏とか御題目(おだいもく)とかはないんです。」
「御題目(おだいもく)って、何だい?」
「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)です。」
「あ〜〜、それかぁ。あんた詳しいねえ。ひょっとして、お坊さんロボット?」
「違いますよ!それより、カミナリが鳴ってますよ。」
「うるさいねえ、分かってるよ。」
「すみません。」
「それにしても、クルマ、多いなあ・・」
「そうですねえ。」
各寺院は、下からのライトで黄金色に輝いていた。
「綺麗だねえ。さすが世界遺産だねえ。」
「早く下りましょうよ。」
「分かってるよ!」
「早く行きましょうよ。」
「左は変わった店が多いねえ。」
「そうですね!」
「あっ、インターネット喫茶もあるよ。」
「そうですね!」
「あっ、ラーメン屋だ。高野山ラーメンだって。…おいしそうだなあ。」
「そうですかあ。」
「ちょっと、食べて行こうかなあ。」
「え〜〜〜!?」
「冗談だよ!」
稲光が発光して、大きな雷鳴が轟いた。福之助は手を合わせていた。震える小さな声で念仏を唱えていた。
空が光り、不気味な雷鳴が高野山に轟いていた。
「早く行きましょう!」
「カミナリなら、大丈夫だよ。」
「どうしてですか?」
「そこらじゅうに、避雷針があるよ。」
「え〜〜!ってことは、カミナリが多いってことだ。」
「まあ、そういうことかな・・」
「早く行きましょう!」
「ああ、分かったよ!」
「くわばら、くわばら…」
「福之助!」
「はい。」
「このままだと、CPUが暴走する。命令だ、感情機能をオフにしろ。」
「はい。感情機能をオフにします。」
「実行!」
「実行シマシタ。」
「五分間、スリープしろ。」
「ハイ。」
福之助は目を閉じると、動かなくなった。



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