「今の世の中は、昔と違って、ひじょ〜〜〜に厳しいのです。自分を戒めないと、幸せはやってきません。」 歩(あゆみ)の母も同感だった。 「そうですねえ。昔と違って、今の世の中は厳しくなってますねえ。」 ショーケンは、煙草を取ってライターで火をつけた。 「そういうとにきは、煙草を吸うと幸せな気分になるよ。」 「それは、気晴らしであって、幸せではありません。」 「気晴らし、そうかなあ?」 「気晴らしは、一時的な快楽です。」 「まあ、そうだけど。」 「ストレスが多いから、煙草を吸ったり酒を必要以上に飲んだりするのです。」 「まあね。」 「健康を害さない程度にしないと、病気になって、ほんとうに幸せが来なくなります。」 「龍次さんは、お医者さん?」 「いやあ、昔病気になりましてねえ。肺の病気で、三ヶ月ほど入院したことがあるんですよ。それから、健康の大切さ、生きることの大切さを知りましてね。」 「それで煙草を止めたんだ。」 「はい。吸わないと、いらいらしましたけど、止めたら以前より息切れしなくなって、健康になって元気になりました。」 「ああ〜、なるほど。」 「今では、病気に感謝してるんですよ。たぶん、病気にならなかったら、今でも不健康に生きてますよ。ほんとうの幸せを感じることもなく。」 「ほんとうの幸せ?」 「ほんとうの幸せは、こういうなんでもないことを、幸せと感じることができることです。」 「うん、それは言えてる。」 「日々の何でもないことを、幸せに感じるか、何にも感じないかが問題なんです。」 「そういうことか。」 「花や景色を見て美しいと思う気持ち。それが幸せなんですよ。お金さえあれば幸せってもんじゃあないんですよ。」 「うん、なるほどね。」 「ハイテク社会の、これからの人間は、気楽な昔の社会と違って、自分を戒めないと幸せはやってこない。そう気がついたんですよ。」 「そうかも知れないなあ…」 ショーケンは、煙草の半分を残して、煙草を灰皿に押し込んだ。 「身心共に健康でないと幸せはやってこないってことか。俺も、少し控えたほうがいいかな。」 「控えたほうがいいです。」 歩(あゆみ)が発言した。 「最初から、煙草なんて、無いと思えばいいじゃない。」 「無いと思う?」 「世の中には、煙草なんてものは無いと。」 「なあるほどね。」 龍次も感心した。 「それは、いい考えですねえ。」 壁時計が、一時前五分を指していた。 「もう一時ですか、そろそろ出ましょうか?」 みんなは、外に出た。 ショーケンが、周りを見回しながら、ぽつりと言った。 「この村も、今一つだなあ〜。」 龍次は小さく頷いた。 「そうですね。実は、この村に、モノレールを通す計画があるんですよ。」 「モノレール…」 「モノレールから眺める、きっと素晴らしいと思いますよ。」 「どこまで?」 「龍神スカイライン沿いを、高野山までです。」 「それはいいなあ〜。」 歩(あゆみ)も母親の順子も「それはいいわ!」と言った。 四人は、四輪電動自転車・龍神号に乗り込んだ。 「さて、どうやって帰りましょうか?白樺林を抜けて帰りましょうか?」 龍神号の前に、オートバイが止まった。鶴丸隼人だった。 「龍次さん、小次郎が飛び回ってます!」 「えっ、ほんと?」 「はい。」 「どうしよう?」 「自転車は危ないので、バスで帰ってください。バスなら、上空から見えないので大丈夫です。」 「そうだなあ、そうしよう。」 「自転車は、明日にでも誰かに取りにこらせます。」 「分かった。」 「この自転車は、上空から見えないに場所に置いておきます。」 「じゃあ、頼むよ。君は大丈夫かい?」 「大丈夫です。」 「君も、くれぐれも気をつけてな!」 「はい!」 四人は、バス停に歩いて向かった。四人は、バス停の小屋の中に入った。 「ここなら大丈夫、上からは見えない。」 隼人は、龍神号を屋根のある場所に隠した。 「バイクを見られたからなあ、ここにいると教えているようなもんだなあ…」 隼人は、バイクに乗ると、やって来た林道に向かって走り出した。 「来るなよ〜!」 頭脳警察の無人偵察機が上空を飛んでいた。 「やばいなあ〜、見つかったかなあ〜?」
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