その頃、ニート特攻隊の隊長・鶴丸隼人は、野迫川村(のせがわむら)に向かう林道を、忍のモトクロス・オートバイで走っていた。 初秋の空は、澄んで晴れていた。 「怖いくらいに晴れ渡っているなあ…」 隼人に不安がよぎった。 「こんなに澄んでると、空から丸見えだ。」 隼人は、頭脳警察の猿狩り小次郎を警戒していた。 後方から、ヘリのローター音が聞こえてきた。隼人は、バイクを止め、振り返って上空を見た。不安は的中した。 「ちぇ、小次郎だ!」 猿狩り小次郎は、隼人の上空で止まった。 「うん、なんだ、俺かよ!?」 隼人は、自分も指名手配の身だということを思い出した。猿狩り小次郎から、追跡ロボット・ムサシが放たれた。 「しまったぁ〜!」 隼人は、急発進した。 空を飛べるムサシは早かった。隼人に追いつくと、飛びながら声を発した。 『止まってください!顔を確認させてください。一般市民には危害を加えません!』 隼人は、脇道に入った。 「やばいなあ〜、これじゃあ薮蛇(やぶへび)だぁ!」 ムサシは、なおも追いかけてきた。 「くそ〜〜〜ぅ!」 ムサシは上空で大きな音声で警告していた。 『直ちに止まって、顔を確認させてください!』 隼人は、アスファルトのない荒れた道を、スピードを速めたり緩めたりしながら走っていた。 『止まりなさい!』 道が細くなってきた。隼人は不安を感じた。ススキが道の両側を埋めていた。 「やばいなあ〜!」 『最終警告です!従わないと危害を加えます!』 道が無くなったので、隼人はバイクを止めた。前方は崖になっていた。 「くそ〜〜、山道だったらな〜!」 止まった場所は、山間の場所ではなく、広く開けたススキの生い茂る場所だった。 隼人は、エンジンをふかし、バイクを反転させた。前方、十メートルくらいの所に、ムサシが逆噴射で降りてきた。電撃銃を構えていた。 隼人は、バイクから降りた。ムサシが、一歩一歩と迫ってきた。 『顔を確認させてください!』 隼人は両手をあげた。 「降参、降参!」 隼人は、背中のリュックを背から外すと、中から紙袋を取り出した。 『武器ですか?』 「その通り!この中に、電撃手投げ弾が入っているんだよ。」 隼人は、紙袋をムサシに見せるように足元から約一メートル先に置いた。 「物騒だから、その鉄の足で踏み潰してよ。」 『分かりました。』 ムサシは、紙袋を左の足で踏みつけた。 「あほ!」 隼人は、崖の方向に逃げた。 『待て!』 ムサシも崖に向かって駆け出した。 『うわ〜〜〜!』 ムサシが踏みつけたのは、磁石だった。重い磁石を足の裏にくっつけたままのムサシは、バランスを崩して転び、崖から落ちていった。 隼人は、崖の下を見た。ムサシが、傷ついた虫のようにもがいていた。 「その磁石は、どう頑張ったって外れねえよ!」 ムサシは、助走してジャンプしなければ、飛ぶこともできなかった。 「それじゃあ、飛ぶのも無理だな。」 ススキをくすぐる、ほらほらほらの、とっても愉快な風が吹いていた。
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