きょん姉さんの鼻が、ピクッと動いた。 「うん、焼き芋の匂いだ!」 姉さんは窓際に行き、外を眺めた。 隣の隣のログハウスのバーベキューエリアでサツマイモを焼いていた。 「あれか〜〜。」 福之助がやってきた。 「姉さん、どうしたんですか?」 「焼き芋だよ〜〜。おいしそうだなあ〜。」 「今、食べたばっかりじゃないですか。」 「あれは、主食だろ。」 「今度のは何ですか?」 「サップリメントだよ。」 「サップリメント!?」 「サプリメント!」 「でっかいサプリメントですねえ〜!」 「うるさいな〜。」 レモンティーを飲んでいたアニーも、飲むのを中断してやってきた。 「焼き芋ですか?」 「おいしそうですよねえ。」 「彼に頼みましょうか?」 「忍者の彼ですか?」 「ええ。」 「そういえば、あの人遅いですねえ。」 「今日は、二時ごろになるって言ってました。」 「ああ、そうですか。あの人、どういう人なんですか?」 「お寺の方です。山田太郎って言ってました。」 「山田太郎さん、なんだか判子みたいな超平凡な名前ですね。慈尊院(じそんいん)の方ですか?」 「はい。何か?」 「いえ、目つきが刑事とか探偵ぽかったもので。」 「ああ、そうですかあ。だったら、そうかも知れませんねえ。」 「ええ!?」 「高野山警察の忍者隊・月光かも知れません。」 「え〜〜!?まぁじ〜?」 「よく分からないんです。」 「よく分からない?」 「はい。こっちに来たら、手伝いがいるってことだけで、それ以上は。」 「そうなんですか。」 「とにかく味方ですよ。」 「そうですね。」 アニーは、視線を変えた。 「あっ、ダチョウだわ!」 「ぅわ〜、ほんとだ!」 大きなダチョウが、小さなリアカーを引いて歩いていた。白旗を持った少女がやってきて、リアカーに乗り込んだ。リアカーには椅子が備え付けてあった。ダチョウは、近くの木をトントンと嘴(くちばし)で叩いてから歩き出した。 アニーは、注意深くダチョウの動きを見ていた。 「さっきのノックは、ダチョウだったんじゃないかしら?」 「そうかも知れませんねえ。あのダチョウ、どこに行くんですか?」 「ダチョウ牧場が、人間村の奥にあります。そこじゃないかしら?」 「ダチョウ牧場?」 少女は、ダチョウの手綱を引いていなくなった。ログハウスの前の道を通り過ぎて行った。 「いいなあ〜、高野山は、なにやらメルヘンチックで。」 「そうですかあ?」 「こんな場所はないですよお。」 「そうですかねえ?」 「焼き芋もあるし。」 「焼き芋は、どこだってありますよ。」 「高原で食べる焼き芋、とくに高野山の焼き芋はおいしそうだなあ〜。」 「どうしてですか?」 「結界で食べる焼き芋は、きっとおいしいですよ〜。」 「そうですかねえ?」 福之助がぼやいた。 「けっかいな、姉さん!」 姉さんは福之助の目を睨んだ。 「くっだらねえ〜〜ぇ!」 姉さんは、アニーに頼んだ。 「彼が、やってきたら、芋を注文しといてくださいよ。」 「分かりました。」 姉さんの目は、きらきらと少女漫画の主人公のようにキラ星が飛び出していた。 「たのしみだなあ〜〜。」 姉さんは、すっかり焼き芋のことで、頭がいっぱいになっていた。 福之助は、姉さんを睨んだ。 「そんなに食べてばかりいたら、太ってボンクラになりますよ。」 「ぼんくら?…盆暮れの間違いだろう?」 「ぼんくれって何ですか?」 「わたし、食べ物のことでは、怒りたくないからさ〜。」 「えっ?」 「盆暮れって、言っておくれよ〜、福ちゃわ〜〜〜ん!」 「気持ち悪いな〜〜!変な声出してぇ〜!」 「言っておくれえよ〜〜、福ちゃわ〜〜〜ん!」 「気持ち悪いなあ〜〜!わたしは、茶碗じゃありませんよ!」 姉さんは、右手の人差し指で福之助の胸を強く押した。 「ねったら、福ちゃん!」 「気持ち悪いな〜、気安く触らないでくださいよ!」
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