アキラは、まるで子供のような無邪気な表情で歩いていた。 「あ〜〜〜、お腹空いちゃったぁ!」 ヨコタンは爽やかな瞳で、爽やかに優しい姉のように答えた。 「早く我が家に帰りましょう!」 「ヨコタンって、姉さんみたいだなあ〜。」 「アキラさん、お姉さん、いたの?」 「いたけど、十年前に交通事故で死んじゃった。」 「そうなの…」 ヨコタンは、それ以上聞こうとはしなかった。 二人は、高野山テクノロジー研究所にスライダーカートを置いて、人間村に向かっていた。 「ここの人たちは、何というか普通の人たちとは、ちょっと違うね。ちょっとじゃなくって、だいぶ違うね。」 「だいぶ違うって、どういうふうに?」 「なんて言うか、心が優しいっていうか。そういう感じ。」 「そうかしら?」 「心が柔軟って言ったほうがいいかな?ピンポ〜ン♪」 「心が柔軟…、そうかなあ?」 「きっと、ここにいる人は気がつかないんだよ。絶対に、頭と心がこちこちじゃないよ。」 「ここの人たちは、意外と科学的なのよ。弘法大師が、そうだったように。とっても柔軟なの。」 「ああ、そうなの?弘法大師という人も、そうだったんだあ〜。」 「弘法大師は、ドーム型の堤防とか設計して、科学者だったんですよ。薬にも詳しかったし。今でも、弘法大師の薬が売られているんですよ。」 「え〜〜、ほんと。そりゃあ凄いや。」 「頑(かたく)なに生きてたら、頭がこちこちになって猿人間キーキーになってしまうわ。大切なのは、科学的に柔軟な思考で生きることなの。」 「こちこちは、駄目なんだ。」 「こちこちは危ないです。年を取るとボケます。」 「わ〜〜、おっかねえ〜。」 「アキラさんって、話を聞いてると、とっても合理的で柔軟だわ。どうしてかしら?何かやってます?」 「えっ、何かって?」 「頭を使うこと?」 「別に…」 「じゃあ、どうしてかしら、その柔軟な思考は?不思議だわ。」 「あ〜〜〜、やってる!」 「何を?」 「将棋!」 「あ〜〜、それで分かりました!」 「ピンポ〜〜ン♪」 「将棋の柔軟思考だったのね。納得、納得。」 「ふ〜〜ん、将棋も役に立ってるんだ〜。爺ちゃんに、ありがとうって言おう。」 「頭を使う素晴らしい趣味だわ。」 「ヨコタンは、将棋はしないの?」 「わたしは、将棋も囲碁も駄目。」 「ああ、そう。」 「でも、チェスは少しできるわ。」 「お〜〜〜、チェスね。西洋将棋だあ〜。今度教えて!」 「教えられるほど強くはないけど、いいですよ。」 「やっぱり、インテリは、将棋じゃなくって、チェスなんだあ〜。かっこいいなあ〜。」 「将棋もチェスも同じでしょう?」 「そうかなあ〜?」 「同じですよ。動きとルールが違うだけでしょう。」 「他には、どういうのがいいのかなあ〜?」 「ボケない方法のこと?」 「うん、そう。俺、ボケたくないから!」 「そうですねえ…、体を動かすことも大切だわ。」 「その他には?」 「積極的に社会参加すること、かな?」 「積極的に?」 「受身じゃ駄目だわ。脳を使わないから。」 「なあるほどね!」 「何かを積極的にすればいいのよ。趣味とかもいいんじゃない?」 「パチンコとか?」 「そんなのは駄目よ。あれは趣味じゃなくって、博打でしょう。積極的に頭なんか使わないじゃない。」 「じゃあ、どんなの?」 「俳句とか、詩とか、絵画とか。陶芸とか、大工仕事でもいいわ。」 「ああ、そういうのね。」 「とにかく、何かを自分からやってればいいのよ。農作業もいいって、誰かが言ってたわ。」 「人に命令されるんじゃなくってね。」 「そうです。受身は駄目なんです。」
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