「姉さん、人間村です。」 さわやかな風に包まれてた村の風景は、山々が村を抱くように囲み、照れ屋の母のほっぺのように、ところどころ紅葉に色づいていた。 手前には、まだ青々とした牧草地帯が広がっていて、遠くで山羊(やぎ)や牛たちが草を食(は)んでいた。 道端のところどころのコスモスが彩りを添えていた。 「綺麗な村だねえ。」 「そうですねえ。」 「こうやって、四季折々の風景が、人の心を和ませているんだねえ。」 「そうですねえ。」 「あんた、そうですねえそうですねえ。しか言えないの。」 「すみません!そういうのは、ロボットには、分かりません。」 「そうか…、それは残念だ!」 大きな看板があった。 < ニート革命軍 人間村 我々は大地に引きこもる! > 「凄いねえ。さすがに高野山だねえ。逆利用して、錦の御旗にしてるよ。」 「さすがに、世界遺産。国際人権団体がバックにありますからねえ。」 「そうだね。これじゃあ、うかつに手は出せないよ。」 「あたまいいですね。」 「さすがに、戦略家の龍次だねえ。先の先を的確に読んで動いてるよ。』 「そうですねえ。」 『科学者と言うより、政治家だな。』 「そうですねえ。」 「政治コンピュータ<スーパーマザー>と、人間の知恵比べだな。』 「そうですねえ。」 「また、そうですねえ。だけになってるじゃん。」 「あっ、すみません。高度な質問なもので。」 「なにしろ、高野山は義経が逃れたところだからな。」 「そうなんですか。」 「あれえ、違ったかな?」 村には、丸い建物が沢山あった。 「なあんだい、あれ?」 「人の家じゃないですか。」 「入り口や窓があるから、そうなんだろうね。」 「ジャパンドームハウスの、強化発泡スチロールの家じゃないんですか。」 「うん、そうだね。」 「空気の断熱効果で、けっこう温かいらしいですよ。」 「あれじゃあ、雪だ積もっても大丈夫だね。」 「こういうところは、いいんじゃないですか。ここまで運ぶのも楽だし。」 「姉さん、気圧が下がってきました。爆弾低気圧みたいです。」 「あっ、そう。そりゃあ大変だ。」 「どうしましょう。」 「引き返して、宿でも探そうか。」 「そうですね。山の天候は変わりやすいので急ぎましょう。」 「真っ直ぐ下ると、どこに行くんだい?」 「ちょっと、待ってください。」 福之助は、カーナビの画面を操作しながら見ていた。 「ええ〜っと、アテネです。」 「なんだって?」 「アテネ…」 「アテネ!?」 姉さんは、自動車(クルマ)を止めて、カーナビの画面を覗き込んだ。 「アテネが、どうして日本にあんだよ〜?」 福之助が指をさした。 「ほらね。」 「ほんとだ。なんだい、これ?」 「キャンプ場ですね。」 「日本の名前をつけろよなあ〜〜。」 「そうですよねえ。」 「アテネを抜ければ国道370に出るけど、道が狭そうだしなあ。距離もあるし…」 「そうですねえ。」 「やっぱ、引き返そう!」 「それがいいですね。熊でも出たら大変ですよ。」 「熊ぐらいだったら、バルカン砲で脅してやるから大丈夫だよ。」 「バルカン砲って、戦闘ヘリについてるやつですか。これ、そんなのが装備されているんですか!?」 「そうだよ。そこらへんのものだったら、一瞬に砕け散っちゃうよ。」 「駄目ですよ、そんなの使っちゃあ〜!人に当ったらどうするんですか!?」 「冗談だよ。そんなのがついてるわけないだろう。」 「ああ、びっくりした。」 「あんたって、真面目だね。」 「ロボットですから。」
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