テレビでは、猿人間キーキーのニュースをやっていた。 『猿人間キーキーとは、絶対に口論しないでください。言ってることに逆らったりしないでください。鼻などを噛みつかれて大変に危険です…』 きょん姉さんは、一言ぼやいた。 「そんな事言ったってねえ。どうやって、普通の人間と猿人間キーキーとを見分けるんだい?」 対面側に座っているアニーも同感だった。 「そうですよねえ〜。」 福之助は、姉さんの横に座っていた。 「姉さんは、人の心を見抜くのは得意じゃないですか。」 「猿人間の心は見えないよ。」 「じゃあ、見えないのが猿人間なんですよ。」 「でも、時々見えない人間だっているからなあ〜。」 「そうなんですか?」 「心の病んでる人とか、逆に天才とか。」 「そうなんですか?」 「人間の心は複雑なんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「何か印(しるし)とかあるといいんだけどなあ。」 「そうですねえ。」 ドアベルがカランカランと鳴った。 姉さんが立ち上がった。福之助も立ち上がった。 「わたしが出ます。」 福之助はドアの前に立った。 「何ですか?」 ドアの向こうから、少女の声がした。 「セグウェイの鍵を返しに来ました。」 姉さんが来て、ドアを開けた。 「あ〜真由美ちゃん。もういいの?終わったの?」 真由美の後ろには、兄のまさとがいた。 「どうもありがとうございました!」 「もういいの?まだ良かったのに。」 「お母さんが、御飯をつくって待っていますから。」 「ああ、そうなの。じゃあ帰らなきゃね。」 「はい。」 アニーも出てきた。 「私たち、とうぶんここにいるから、いつでも貸してあげるわ。」 「いつまでいるんですか?」 「分からないけど、一ヶ月はいるわ。」 「一ヶ月で帰っちゃうんですか?」 「たぶんね。」 真由美は、少し悲しい顔になった。 「帰っちゃうんですか?」 「そうなの、ごめんね。」 兄妹は帰って行った。山の彼方で、小さな雲が少し大きな雲を追いかけていた。 姉さんがアニーに尋ねた。 「一ヶ月なんですか?」 「予定ではそうなっているんですけど、はっきりとは分からないんです。」 「ってことは、それ以上にも、それ以下にもなるってことですか?」 「そうなんです。われわれは命令された通りに動く端末ですから。」 「終わったら、ニューヨークの国連本部ですか?」 「たぶん。葛城さんは?」 「…分かりません。」 「また、どこかで逢えるといいですね。」 「はい。」 姉さんは、少し悲しい目になっていた。 「きっと、どこかで、また逢いましょう!」 福之助は壁時計を見ていた。 「あっ、もうすぐ正午だ。食事の用意をしなきゃあ。」 姉さんも壁時計を見た。 「もう、お昼か。おまえ作るの?」 「はい。」 「何作るんだよ?」 「テレビで、キュウリに蜂蜜をかけて食べるとメロン味になるって言ってました。」 「そんなのいいよ。」 「トマトが、まだあります。トマトは丸いほうがいいそうです。」 「どうしてだい?」 「丸くないのは、無駄な空洞が多くって、甘くないそうです。」 「それも、テレビで言ってたのかい?」 「はい。硬い豚肉は、牛乳に浸しておくと柔らかくなるそうです。」 「もういいよ、そういう講釈(こうしゃく)は。何でもいいから早く作れよ。」 「はい。」 「ご飯はあるのかい?」 「はい。天野無農薬米というのがあったので、さっき炊飯器のスイッチを入れておきました。」 「それ、おいしそうだねえ。」 アニーは、炊飯器を見た。 「おいしいんですよ。ここの無農薬米は。おかずが要らないくらいに。」 食いしん坊の姉さんは、大いに喜んだ。 「ぅわ〜〜、楽しみだなあ〜!」 福之助が発言した。 「明太子と生卵の、ごちゃまぜどんぶりがおいしいそうです。」 「ああ、そう。」 「アボガドに醤油を加え、お好みでわさびを加えます。そしてそれをご飯の上に乗せれば、アボガド醤油丼のできあがり。」 姉さんは怒った。 「分かった分かった!おまえは、変なの作りそうだから、わたしが作る!」
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