龍次は、すっかりボヤッキーになっていた。 「あ〜〜あ、三レース全て、すっちゃった!」 ショーケンは外れたけれども、極めて冷めていた。 「まあ、こんなもんだ。」 「ビギナーズラックになるはずなのになあ?」 「ビギナーズラック、なにそれ?」 「ほら、よく初めての人が、馬券とかに当てるでしょう。あれですよ。」 「あ〜、それを、ビギナーズラックって言うんだ。」 電動四輪自転車・竜神号の後ろに乗っている橘親子は、るんるん気分だった。 「お母さん、よかったわねえ〜、わさび猪ハムをもらえて。」 「よかったわ〜〜、もう一度やってみたいわ。」 「今度、お父さんと来ましょう!」 「そうね。あの人も、こういうの好きだからね。」 「お父さん、仕事ばっかりだもんね。」 「あの人は、仕事が好きなのよ。」 「あっ、子供たちが、何かやってるわ。」 野迫川小学校の校庭では、十人ほどの小学生たちが二手に分かれて、紙をテープで丸めたボールで、障害物を所々に置いて投げ合っていた。 「源平雪合戦の練習をしているんじゃない。」 「ああ、そうだわ。」 ショーケンも、その子供たちを見ていた。 「源平雪合戦って?」 順子が答えた。 「冬に紅白に分かれて、雪合戦をするんですよ。ここは、平家物語の悲劇の英雄・平維盛(たいらのこれもり)が、源氏(げんじ)の追っ手を逃れ、身を隠したところなんです。それに因んだものらしんですけど。」 「源平雪合戦かあ…」 「スポーツとしても楽しいんですよ。野迫川村は、奈良県の北海道と呼ばれてるくらいに、雪が多いんです。普通の雪合戦と違うところは、兜(かぶと)以外のところに当たると場外なんです。」 「なんか面白そうだなあ〜。」 「全国から参加するんですよ。テレビ中継されるほど有名なんですよ。」 「ああ、そうなの。」 野迫川小学校の隣には、星空の広場があった。中央に天文台があった。手前に、青空のインターネット喫茶<ロマンスター>があった。その駐車場に三台の自動車(クルマ)が止まっていた。 龍次は、その駐車場にハンドルを切った。 「あそこに止めて、昼食にしましょう。もうすぐ十二時ですから、ちょうどいいです。」 自転車を止めると、龍次たちは後部ボックスから、用意した弁当と飲み物を取って、星空の広場の方に向かった。星空の広場には、ベンチはあったが、テーブルなどは無かった。飲み物の自動販売機が一台あった。 龍次は見回した。 「インターネット喫茶に行きましょう!」 みんなは、村営のインターネット喫茶に入った。龍次は、一時間分の四人分の料金を払って、中に入った。 二人の外国人と、三人の外国人が、インターネットをしながら、飲み物を飲んでいた。どちらの外国人たちも、無料のテレビ電話を笑いながらやっていた。一方は英語だったが、一方はフランス語だった。インターネット喫茶の天井は、透明のドームになっていた。 歩(あゆみ)が指差した。 「窓際の席がいいわ。」 みんなは、その席に座った。 歩(あゆみ)が、みんなに言った。 「飲み物、無料だから持って来るわ。何がいい?」 龍次は「ホットのレモンティー。」と言い、順子は「緑茶でいいわ。ホットでね。」と言った。 ショーケンは「コーラ。」と言った後、歩(あゆみ)と一緒に取りに行った。それぞれ、二カップ持って戻って来た。 「さあ、食べましょう!」 龍次は、持ってきた弁当をテーブルの上に置いた。 窓の近くで、野迫川村の鳥、ウグイスがホーホケキョと鳴いていた。小さな村には、都会にはない優しさが漂っていた。 片隅のコーナーにあるソファーで、誰かが毛布を被(かぶ)って寝ていた。
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