「人生は、あっと言う間です。この前、小学生だと思っていたのに、もうじき六十ですよ。あ〜〜あ、悲しいなあ〜。もう一度、小学生に帰りたいなあ〜。」 保土ヶ谷龍次は、自分の人生を嘆いていた。 「死は急がなくっても、すぐにやって来るんです。」 それに対する返事は無かった。 「わたしの問いかけに対するフォローは無しか、悲しいなあ〜。」 「そんなことはどうでもいよ。早く猪(いのしし)に逢いに行こう!」 「冷たいなあ〜、ショーケンさん!」 野迫川村名物の<わさび猪ハム>の看板が見えた。 「あの看板を曲がれば、野迫川村(のせがわむら)です。」 歩(あゆみ)が母に言った。 「お母さん、あれ買って行こうよ。お父さんが喜ぶわ。」 「そうね、酒のおつまみにいいわね。」 龍次も相槌を打った。 「あれ、とってもおいしいんだよね。せっかく来たんだから、僕も買って行こうっと!」 猪(いのしし)レース場は、野迫川村役場の隣にあった。龍次は龍神号を止めた。 「ここだ!」 ショーケンは目を見張った。 「お〜〜〜、けっこう来てるじゃあん、お客!」 「そうですねえ。」 百メートルの直線コースの両サイドは、見物人でいっぱいだった。 「百人は来てるなあ〜。」 「百人は来てますねえ〜。」 龍次は、駐車場の脇の駐輪場に電動四輪自転車・龍神号を止めた。 「近くに行って。見ましょう!」 コースの山側サイドは、見物用に段差が造られていた。 歩(あゆみ)が、ゴール近くの段差を指差した。 「あそこだったら、よく見えるわ!」 みんなは、そこに向かった。アナウンスが流れた。 『間もなく、次のレースが始まりま〜〜す!』 歩(あゆみ)が母に向かって手招きした。 「お母さん、こっちこっち、早く!」 みんなが到着すると、ほぼ同時にゲートが開いてレースが始まった。六頭の猪(いのしし)が文字通り猪突猛進(しょとつもうしん)に飛び出した。 ショーケンは驚いた。 「お〜〜、凄げ〜ぇ!」 そのまま、猪たちは、物凄い勢いでゴールした。 歩(あゆみ)も手を上げて喜んだ。 「すごいわ〜〜〜!」 母親も、口を開け目を丸くしていた。 龍次も、レースを見るのは初めてだった。 「こっれは、凄いなあ〜!」 ゴールの写真が大きな画面に映し出され、アナウンスが流れた。 『一位黄色の三番、二位赤色の一番です。』 猪券(いのけん)を購入した者は、商品交換所に急いだ。 ショーケンは走り終わった猪たちを見ていた。 「う〜〜〜ん、ここのは伊豆で見たのより凄いや!」 歩(あゆみ)も走り終わった猪たちを見ていた。 「伊豆のは、どういうのだったんですか?」 「もっと小さな猪でねえ、円形の短いコースを一周するんだけど、こんなに迫力はなかったなあ〜。」 「猪って、やっぱり早いなあ〜。」 二人の話を聞いていた龍次が語りだした。 「猪は、全速で走ると時速約四十五キロメートルの速さなんです。百二十センチの高さのバーを助走なしに跳び越えることもできるんですよ。」 歩(あゆみ)の母は、感心したように聞いていた。 「保土ヶ谷さんは、猪(いのしし)にも詳しいんですねえ。」 「入口に書いてあったんですよ。」 「なあんだ。」 アナウンスが流れた。 『次のレースは、十五分後に始まります。猪券(いのけん)の欲しい方は二分前までに購入してください。』 龍次が、にこにこしながら促した。 「僕らも、買いましょう!」 クールなショーケンも、少し熱くなっていた。 「確か、馬連…、じゃなくって、猪連(いのれん)でも買えるんじゃない?伊豆では買えたよ。」 龍次は、大人気なく、子供のようにはしゃいでいた。 「買えます、買えます。書いてありました!じゃあ買いに行きましょう!」 歩(あゆみ)も楽しそうだった。 「さわび猪ハムが、商品にあるといいんだけどなあ〜。」 母親の順子も楽しそうだった。 「そうねえ、あるといいわねえ〜!」 龍次は、子供のようにはしゃいでいた。 「あります、あります。きっとあります!」
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