テレビで、猿人間キーキーのニュースをやっていた。 『今朝、コンビニに買い物に来ていた女性が、猿人間キーキーと口論になり、鼻を噛みつかれました。』 人間村の集会所で、忍とポンポコリンは、お茶を飲みながらテレビを観ていた。 「さっき、高野山でも、猿人間キーキーのアナウンスが流れていたなあ。」 「そうだね。気持ち悪い世の中ねえ〜。」 「どうなってんのかなあ、いったい?」 「何が起きているんでしょうね?」 集会所の前に、モーター音が聞こえてきて止まり、スライダーカートが止まった。鶴丸隼人が入ってきた。 「カートが食堂の前に置いてあったよ。保土ヶ谷さん、いる?」 忍が答えた。 「保土ヶ谷さんだったら、ショーケンさんなんかと一緒に、野迫川村(のせがわむら)に電動四輪自転車で行ったよ。」 「野迫川村(のせがわむら)まで?ショーケンさんと誰なの?」 「よく分からない。」 ポンポコリンが答えた。 「ショーケンさんのファンとか言ってたわ。」 「ああ、そう?大丈夫かなあ〜?」 「すぐに戻るから、心配するなって言ってました。大丈夫ですよ、野迫川村くらいまでだったら。」 「そうかなあ…」 「頭脳警察は、あんなところまでは来ないわよ。」 「それならいいけど。最近、猿狩り小次郎が、けっこう飛んでるからなあ。昨夜も近くまで飛んで来たし。」 「気になるんだったら、電話をしたらどうですか?」 「そうだなあ…」 隼人は、携帯電話を取り出した。電話をかけた。 「あっ、もしもし、保土ヶ谷さん…」 『………』 「ああ、そうですか。分かりました。あっ、保土ヶ谷さん、人間村に入りたいという若い男性が来ているんですけど、どうしましょう?」 『………』 「分かりました。」 隼人は電話を切った。ポンポコリンが尋ねた。 「どうでした?」 「すぐに戻るから、心配するなって。」 「やっぱり。」 「急に出掛けたの?」 「はい。」 「あの用心深い保土ヶ谷さんが、唐突に出掛けるなんて、よほどのことがあったんだなあ。」 「あの方、意外と情で動くときがありますよ。いきなり、唐突に。」 「うん、そうだなあ…、だから心配なんだよ。」 忍は窓の外を見ていた。カートの助手席に見知らぬ男が座っていた。 「人間村に入りたいって、あの人?」 「そう。ヨコタンの名刺を持ってたよ。」 「ヨコタンの名刺を?」 「来る途中に逢ったらしいよ。」 テレビでは、新赤軍のメンバー逮捕のニュースをやっていた。 『今日午前八時頃、大菩薩峠近くで新赤軍のメンバーが破壊活動防止法で逮捕されました…』 鶴丸隼人は、眉間を寄せた。 「やっぱ、俺行ってくるよ。」 心配そうに、ポンポコリンが尋ねた。 「野迫川村(のせがわむら)にですか?」 「ああ、忍くんのオフロードのオートバイ貸してくれない?」 忍も心配そうだった。 「ほんとうに行くんですか?」 「ああ。」 「いいですよ。キイは、そこにかかってます。武器は持っていかないんですか?」 「武器?そんなものは人間村にはないよ。」 「えっ、そうなんですか?」 「人間村には、そんな物騒(ぶっそう)なものはないよ。」 「ああ、そうだったんですか。」 「外の若者、頼むよ。ここに入れて待たせておいてよ。」 「分かりました。」 さすらいの風男・鶴丸隼人は、颯爽(さっそう)とヘルメットを被って出て行った。 忍は窓から見送った。 「さすが、ニート特攻隊の隊長だ!」
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