「あっ、お兄ちゃん、蝶々だ!」 「あっ、クジャクチョウだ!」 秋の花の植えてある遊歩道で、子供たちが蝶々をデジカメで撮っていた。 「高原蝶撮影コンテスト、まだやってるんだ?」 「うん!」 「カメラをもらいに行こう!」 「応募するの?」 「応募するのは無料だからな。」 二人は、セグウェイで高野町森林学習展示館に向かった。 「デジタルカメラ、かしてください。」 そう言うと、まさとは受付の女性に、学校の身分証明カードを渡した。受付の女性は、機械にカードを差し込むと、まさとに戻し、デジタルカメラを手渡した。 「夕方の五時までには返してください。」 「はい、分かりました。」 「お兄ちゃん、優勝して十万円もらえるといいね〜。」 「いい写真を撮るぞ〜〜!」 二人は、蝶々の写真を撮りに、コスモス広場に向かった。 「よし、ここだ!」 二人はセグウェイを降りた。斜面には、ヤマハギの花が咲いていた。 「あっ、お兄ちゃん、黄色いのがいるわ!」 「キタキチョウだ!」 まさとは、静かに蝶に近づいた。蝶は飛んで行った。 「あ〜〜〜あ!」 「難しいわねえ〜。」 「望遠で撮るしかないな。」 「ぼうえん?」 「望遠鏡の望遠。」 「望遠鏡、持って来たの?」 「このカメラについているの。」 「ああ、そうなの?あっ、あそこにいるわ!」 まさとは振り向いた、そして、少し歩み寄ってから構えた。 「よし、今だ!」 シャッター音がした。 「撮ったぞ!」 まさとはカメラの画面を見た。 「お〜〜〜、いいねぇ〜!」 真由美が観に来たので、見せた。 「ほら!」 「わ〜〜〜、綺麗に撮れてる〜〜!」 「でも、ちょっとぶれてるなあ。」 「ぶれてるって?」 「ちょっと、ぼけてるだろう、持ってる手が動いてるんだよ。」 「難しいのね。」 「何でも、そんなに簡単じゃないんだよ。」 模型ボブスレー場の方から、ロボットが手を振りながらやって来るのが見えた。 「真由美ちゃ〜〜〜ん!」 「あっ、紋ちゃんだ!」 紋次郎の脚は早かった。二人は驚いた。 「紋ちゃん、早いのねえ〜。」 「もう、完全に直ったんだよ。前よりも早くなったよ。」 「どうして?」 「いい部品に取り替えてもらったんだよ。」 「それは良かったねえ!」 「うん、良かったよ!何してるの?」 「蝶々をカメラで撮ってるの。」 「どうして撮ってるの?」 「コンテストに出すのよ。一等賞になったら、賞金がもらえるの。」 「それはいいなあ〜。」 まさとは周りを見ていた。 「あっ、キタキチョウだ!」 まさとは走った。五メートルほど手前で止まった。真由美ちゃんと紋次郎も急いでやってきた。 まさとは素早く構えると、シャッターを押した。 「あ〜〜〜、またぶれちゃった〜!」 真由美に、映ったものを見せた。 「ぶれてもいいじゃない。」 紋次郎にも見せた。 「ほんとだ、ぶれてますねえ。」 「焦るから、駄目なんだなあ。」 紋次郎が提案した。 「わたしが撮ると、ぶれませんよ。ロボットですから、完全に静止できます。」 「ああ、そうだなぁ!」 「蝶々だったら、大きくて変わったのが上の方にいましたよ。」 「上の方?」 「祠(ほこら)のあるところです。」 「あんなところまで行くのか…」 真由美が、セグウェイを指差した。 「あれで行けば早くて楽だわ。」 「そうだな〜。」 「紋ちゃん、仕事は終わったの?」 「今日は、もう終わり。」 「じゃあ紋ちゃん、ここで待ってて。すぐに戻ってくるから。」 「分かりました!」 二人は、セグウェイに乗って戻ってきた。 「さあ、紋ちゃん行きましょう〜!」 頂上近くの斜面には、ヤマハギの花がたくさん咲いていた。 「あっ、お兄ちゃん、大きいのがいる!」 「クジャクチョウだぁ!」 まさとは、紋次郎にカメラを渡した。 「紋ちゃん、頼むよ!」 紋次郎は、「分かりました!」と言って、カメラを受け取った。 天軸山(てんじくさん)の頂上の展望台の下で、ベンチに座ってミニトランペットを吹いている者がいた。その隣のベンチには、粗末な白い旗を持った少女が座っていた。そして、少女の隣には、二匹のウサギが仲良く寄り添うように座っていた。少女は、漠然と目の前の風を見ていた。二匹のウサギも、静かに、少女の真似をするように風を見ていた。 風が、何かを語らいながら吹いていた。ミニトランペットが風の語らいに合わせて鳴っていた。のっぽのススキが風のリズムに合わせて揺れていた。
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