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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第194回   風のリズム
「あっ、お兄ちゃん、蝶々だ!」
「あっ、クジャクチョウだ!」
秋の花の植えてある遊歩道で、子供たちが蝶々をデジカメで撮っていた。
「高原蝶撮影コンテスト、まだやってるんだ?」
「うん!」
「カメラをもらいに行こう!」
「応募するの?」
「応募するのは無料だからな。」
二人は、セグウェイで高野町森林学習展示館に向かった。
「デジタルカメラ、かしてください。」
そう言うと、まさとは受付の女性に、学校の身分証明カードを渡した。受付の女性は、機械にカードを差し込むと、まさとに戻し、デジタルカメラを手渡した。
「夕方の五時までには返してください。」
「はい、分かりました。」
「お兄ちゃん、優勝して十万円もらえるといいね〜。」
「いい写真を撮るぞ〜〜!」
二人は、蝶々の写真を撮りに、コスモス広場に向かった。
「よし、ここだ!」
二人はセグウェイを降りた。斜面には、ヤマハギの花が咲いていた。
「あっ、お兄ちゃん、黄色いのがいるわ!」
「キタキチョウだ!」
まさとは、静かに蝶に近づいた。蝶は飛んで行った。
「あ〜〜〜あ!」
「難しいわねえ〜。」
「望遠で撮るしかないな。」
「ぼうえん?」
「望遠鏡の望遠。」
「望遠鏡、持って来たの?」
「このカメラについているの。」
「ああ、そうなの?あっ、あそこにいるわ!」
まさとは振り向いた、そして、少し歩み寄ってから構えた。
「よし、今だ!」
シャッター音がした。
「撮ったぞ!」
まさとはカメラの画面を見た。
「お〜〜〜、いいねぇ〜!」
真由美が観に来たので、見せた。
「ほら!」
「わ〜〜〜、綺麗に撮れてる〜〜!」
「でも、ちょっとぶれてるなあ。」
「ぶれてるって?」
「ちょっと、ぼけてるだろう、持ってる手が動いてるんだよ。」
「難しいのね。」
「何でも、そんなに簡単じゃないんだよ。」
模型ボブスレー場の方から、ロボットが手を振りながらやって来るのが見えた。
「真由美ちゃ〜〜〜ん!」
「あっ、紋ちゃんだ!」
紋次郎の脚は早かった。二人は驚いた。
「紋ちゃん、早いのねえ〜。」
「もう、完全に直ったんだよ。前よりも早くなったよ。」
「どうして?」
「いい部品に取り替えてもらったんだよ。」
「それは良かったねえ!」
「うん、良かったよ!何してるの?」
「蝶々をカメラで撮ってるの。」
「どうして撮ってるの?」
「コンテストに出すのよ。一等賞になったら、賞金がもらえるの。」
「それはいいなあ〜。」
まさとは周りを見ていた。
「あっ、キタキチョウだ!」
まさとは走った。五メートルほど手前で止まった。真由美ちゃんと紋次郎も急いでやってきた。
まさとは素早く構えると、シャッターを押した。
「あ〜〜〜、またぶれちゃった〜!」
真由美に、映ったものを見せた。
「ぶれてもいいじゃない。」
紋次郎にも見せた。
「ほんとだ、ぶれてますねえ。」
「焦るから、駄目なんだなあ。」
紋次郎が提案した。
「わたしが撮ると、ぶれませんよ。ロボットですから、完全に静止できます。」
「ああ、そうだなぁ!」
「蝶々だったら、大きくて変わったのが上の方にいましたよ。」
「上の方?」
「祠(ほこら)のあるところです。」
「あんなところまで行くのか…」
真由美が、セグウェイを指差した。
「あれで行けば早くて楽だわ。」
「そうだな〜。」
「紋ちゃん、仕事は終わったの?」
「今日は、もう終わり。」
「じゃあ紋ちゃん、ここで待ってて。すぐに戻ってくるから。」
「分かりました!」
二人は、セグウェイに乗って戻ってきた。
「さあ、紋ちゃん行きましょう〜!」
頂上近くの斜面には、ヤマハギの花がたくさん咲いていた。
「あっ、お兄ちゃん、大きいのがいる!」
「クジャクチョウだぁ!」
まさとは、紋次郎にカメラを渡した。
「紋ちゃん、頼むよ!」
紋次郎は、「分かりました!」と言って、カメラを受け取った。
天軸山(てんじくさん)の頂上の展望台の下で、ベンチに座ってミニトランペットを吹いている者がいた。その隣のベンチには、粗末な白い旗を持った少女が座っていた。そして、少女の隣には、二匹のウサギが仲良く寄り添うように座っていた。少女は、漠然と目の前の風を見ていた。二匹のウサギも、静かに、少女の真似をするように風を見ていた。
風が、何かを語らいながら吹いていた。ミニトランペットが風の語らいに合わせて鳴っていた。のっぽのススキが風のリズムに合わせて揺れていた。




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