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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第193回   心の維新!
江来(えらい)博士は、模型ボブスレーの途中のコースで立ち止まった。
「せっかく来たんだから、見ていこう。」
みんなも立ち止まった。紋次郎が尋ねた。
「この中の蜂は大丈夫ですか、出てきませんか?」
「大丈夫だよ。炭酸ガスで死んでいるから。」
「あ〜、そうなんですか。」
「あそこがビューポイントだな。」
みんなは博士の指し示した場所に腰をおろした。
コースを模型ボブスレーが勢いよく走っていた。少年のように何事にも好奇心旺盛な博士の目は輝いていた。
背後から、声がかかった。
「江来(えらい)先生!」
博士は振り向いた。
「杉田さん!」
「お久しぶりです!」
「どうしたんですか?ハイキングですか?」
「残念ながら、仕事なんですよ。」
「お仕事?」
「実は、候補地を探していましてねえ。」
「候補地というと、新しい塾のですか?」
「はい。」
「こんなところに?」
「今までの塾とは、ちょっと違うんですよ。」
「えっ?」
「進学塾じゃなくって、人間塾なんですよ。」
「人間塾?」
「若者の病んでる心を、健康にするための塾なんですよ。健康というか、当たり前の人間に。」
「当たり前の人間に、ですか?」
「今の人間は、普通じゃないんですよ。心が病んでいます!」
「方向転換ですか?」
「そういうわけではないんですよ。今の社会が要求しているんですよ。」
「そういう需要があるということですか?」
「はい。」
「どういうことを教えるんですか?」
「人間として基本的なことです。人情とか、慈悲の心とか、自然や動物と調和して生きるとか、我々の世代が当たり前のようにしていたものです。これを、今すぐにでも是正しないと、日本は心も社会も必ず潰れます!」
彼の目は、革命家のように強い決意に満ちていた。
「やりますねえ〜、杉田さん!」
「わたしは、本気ですよ!」
「前々から、普通の人じゃないと察していたけど、やっぱりそういう人だったんだ〜!」
「心の維新ですよ!やりますよ、見ていてください!」
彼は坂本竜馬の写真のようなポーズで、遠い空を見ていた。
赤い模型ボブスレーがやってきて、見事に滑走しながら下って行った。
見ていた見物人が叫んだ。
「おっ、今度のは早いぞ〜!」
初秋の空は、爽やかに晴れていた。



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