転軸山(てんじくさん)の山頂の方から、三人の修験者(しゅげんじゃ)が、山歩きのしっかりとした足取りで降りてきた。二匹のウサギが、ぴょんぴょん跳ねながら、修験者(しゅげんじゃ)の前で止まった。 修験者(しゅげんじゃ)たちは驚いて立ち止まった。 「妙なウサギだなあ…、誰かの験力(げんりき)によるものか?」 彼らは、ウサギの馴れ馴れしさに驚いていた。 一人の修験者(しゅげんじゃ)が、印を結び験力(げんりき)の言葉を奇声とともに発した。 「シュダ〜〜〜ッ!」 ウサギは、驚いて修験者(しゅげんじゃ)から離れたが、何事もなかったかのように直ぐに戻ってきた。 「駄目だ、解けない!験力(げんりき)によるものではないぞ?」 修験者(しゅげんじゃ)たちは、首を傾げながら降りて行った。 まさとと真由美は、近くで模型ボブスレーを見ていた。 「お兄ちゃん、今の、三十八秒十七だって、一番だわ!」 ゴールタイムが、電光掲示板に表示されていた。 ボランティアの者が、その模型ボブスレーを抱えると、スタート地点まで延びているベルトコンベアーに載せた。模型ボブスレーは製作者の待つ上に運ばれて行った。 次の模型ボブスレーは、コースから飛び出して、草の上に転がった。 「あら〜〜、どうしたんでしょう?」 「あれはねえ、バランスが悪いんだよ。」 「ばらんす?」 「そう、作り方が間違ってるの。」 「どうしたらいいの?」 「錘(おもり)の位置を変えなきゃ駄目だな。」 「そうなんだ。難しいのね。」 「だから面白いんだよ。」 「そうだね。来週の大会が楽しみだね。」 「ああ、そうだなあ。」 「お母さんも、連れて来ようね。」 「ああ、連れて来るよ。きっと喜ぶぞ。」 「お父さんも好きだったよね。自分でも作ってたし。」 「俺と違って、手先が器用だったからなあ。」 「お兄ちゃんは、お母さんに似てるんだわ。」 「そうかなあ?」 転軸山の頂上には、小さな弥勒(みろく)菩薩の祠(ほこら)が建っていた。 祠(ほこら)の周りには、立ち入り禁止の縄が張ってあった。立て看板が無造作に地面に刺さっていた、『オオスズメバチの巣あり、近づくな!』と書いてあった。 彼らは、祠(ほこら)の前に佇んでいた。年配の男が命じた。 「ここの裏側だ。慈悲丸、見てきてくれ。」 ロボットの慈悲丸は、祠(ほこら)の裏に回った。みんなは、用心のために少し後ろに下がった。 慈悲丸が叫んだ。 「ありました〜〜!」 「戦闘開始!紋次郎くん、行ってくれ。」 紋次郎は、「はい。」と言って出て行った。 バキューム音がして、紋次郎が戦闘を開始した。 オオスズメバチが、勢いよく鋭い威嚇音を発しながら出てきた。 「先生、危ないです!もっと下がってください。」 江来(えらい)博士は、言われるとおりに五メートルほど下がって、姿勢を低くした。 十分ほどで、バキューム音は止んだ。 大きな蜂の巣を持った慈悲丸が出てきた。それから、大きな吸引機を持った紋次郎だ出てきた。 飛んでいるオオスズメバチの姿はなかった。
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