テレビでは、猿人間キーキーのニュースをやっていた。 『今朝、コンビニに買い物に来ていた女性が、猿人間キーキーと口論になり鼻を噛みつかれました。』 アニーはテーブルに座って、レモンティーを飲みながら、黙ってニュースを見ていた。対面には福之助が座っていた。きょん姉さんは、福之助の隣に座って、緑茶を飲んでいた。 「鼻を噛むなんて、人間のやることじゃないねえ。恐ろしい。」 「恐ろしいですねえ。」 「留守の間、何か変わったことはあったかい?」 「さっき、昨日のトマト売りの少女がやってきました。」 「それで?」 「お姉さんに、ありがとうございました。と伝えておいてくださいと言っていました。」 「ああ、昨日のことだね。」 「はい、そうです。」 「来る途中に会ったよ。」 「そうですか。」 「子供なのに、しっかりしてるね。感心しちゃったよ。」 「はい。」 「あんたもしっかりしなよ。」 「しっかりしてますよ!」 「ごめん、ごめん!」 「帰りが早かったですね。」 「あんたのことが気になってね。」 「わたしは大丈夫ですよ。」 「そうみたいだね。安心したよ。」 「ところで、あけみさんは、何時(いつ)来るんですか?」 さっき、来る必要がなくなったって、電話があったよ。」 「なあんだ、そうなんですか。」 「なんか、残念そうだね?」 「いえ、別に。」 福之助は、窓の外を見た。 「あっ、ウサギだ!」 「ほんと!?」 姉さんも窓の外を見た。 「あっ、ほんとだ!」 ログハウス区域の端の方で、2匹の白いウサギが跳ねていた。 姉さんは立ち上がって、窓辺に歩み寄った。 「わ〜〜、可愛い!」 近くを人が歩いていたが、ウサギは逃げようともしなかった。 「あのウサギ、人に慣れてるねえ。」 福之助も見に来た。 観光客風の数人が、ウサギに何かを食べさせていた。 「そうですねえ。」 姉さんは首をひねった。 「でも、妙だねえ?」 アニーも立ち上がって見に来た。 「どうかしたんですか?」 「ウサギって、あんなに人に馴れることってあるんですか?」 「野生ではなくって、飼育されてるウサギじゃないんですか?」 「そうかも知れませんねえ。」 「でも、飼育小屋とか見たことも聞いたこともないなあ。」 「そうなんですか?」 「もし、野生でああいうふうに馴れてるとしたら、ちょっと不思議な光景ですねえ。」 「初めて見ました。」 「わたしも始めて見ました。」 「そういえば、さっきの小鳥といい、昨夜のタヌキといい、高野山の動物はやたらと人に馴れていますねえ。不気味なくらいに。」 「そうですねえ…」 「もしかして、高野山の結界のせいかしら?」 「結界ですか…、そんなことはないと思いますよ。」 「弘法大師の魂が、そうさせてるとか。」 「そういうこともないと思いますよ。」 「なにか、操作でもされているんじゃないでしょうかねえ?」 「操作って?」 「遺伝子操作、とか。」 「遺伝子操作…、遺伝子組み換えのことですか?」 「はい、おとなしいように改造されているんじゃないかと。」 「なるほどぉ…」 「もしかしたら、サイボーグとかクローンのウサギとか?」 「サイボーグ、クローンのウサギ!?」 2匹のウサギは、人の後を追って、おもちゃのように跳ねていた。
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