アニーは腕を組んで考え込んでいた。 「でも、これ大人用だから、真由美ちゃんには無理ねえ。」 まさとが提案した。 「真由美は小さくて軽いので、真ん中に座らせて二人で乗ります。」 「う〜ん、それはいいわね。グッドアイデア!」 「真由美、ここに座ってみろ!」 「うん!」 真由美は、中央の膨らんでるところに座った。 「ちょうどいいわ!」 「お〜〜〜、いいねえ!」 アニーも、よく見てから納得した。 「うん、これなら安全だわ。」 姉さんが気遣(きづか)った。 「少し練習してから行ったほうがいいんじゃない?」 アニーも同意見だった。 「そうですね。そのほうがいいわね。」 まさとと真由美は、練習を始めた。 アニーが二人に声かけた。 「わたしたち、お昼までログハウスで休憩するから、適当に出発していいわよ!」 まさとが答えた。 「はい!」 「わたしたちも、後で行くかも知れないけど、分からないから、終わったら、セグウェイの鍵をポストに入れておいてね!」 「はい、分かりました!」 アニーと姉さんが、ログハウスに入った後、二人は五分ほど練習してから、スキー場の方に向かった。 真由美は、はしゃいでいた。 「ぅわ〜〜〜、これ楽しいわぁ〜!」 「いいなあ〜、これ!」 転軸山公園の入口には駐車場があり、セグウェイも置かれていた。 「あそこのより、綺麗でかっこいいねえ〜!」 「そうだなあ。」 二人の外国人が通りかかり、二人に「グッ・モーニン!」と言ったので、まさとも「グッ・モーニング!」と言った。真由美は、「ニイザオ!」と言い返した。外国人は、きょとんとして彼女を見ていた。 模型ボブスレーのコースは、転軸山(てんじくさん)スキー場の、天文台のある左側に造られていた。 「お兄ちゃん、これだと楽だねえ。」 「そうだなあ〜。」 空はファインに晴れていた。爽やかな針葉樹の香りの空気がゆっくりと流れていた。 粗末な白い旗を握った、真由美より少し年上くらいの女の子が、木のベンチに座っていた。ぼんやりと、目の前の風を見ていた。時々、『富子、生きてる!』と呟(つぶや)きながら。だが、その微(かす)かな声は誰にも聞こえてはいなかった。ベンチを這っている蟻くらいのものだった。 二人は、その少女の前を通り過ぎた。 「お兄ちゃん、何だろう?」 「何だろうなあ?」 真由美は振り返ったが、お兄ちゃんの脚が邪魔して見えなかった。 「新しい遊びかなあ?」 「そうかも知れないなあ。」 二人は、一気に模型ボブスレーのスタート位置まで登った。 「ぅわ〜〜〜、たくさん来てるわ〜!」 「そうだなあ。」 色取り取りの模型ボブスレーを持った人たちが並んでいた。 二人は、セグウェイを降りた。まさとは、鍵を抜いた。 「さあ、見に行くぞ!」 まさとは、妹の手を握ると歩き出した。 模型ボブスレーのコースは、百メートルの距離に、曲がりくねって作られていた。 「お兄ちゃん、上から見ても面白くないわ。下から見ましょうよ。」 「そうだな、やっぱり。」 二人は、再度セグウェイに乗ると、同じ道を下り始めた。 同じベンチには、もう白い旗を握った少女はいなかった。 前方から、見たことのあるロボットがやってきた。 「お兄ちゃん、紋ちゃんだ!」 「あっ、ほんとだ!?」 ロボットの紋次郎の隣には、白色のロボットがいて、彼らの前には二人の人間が先導するように歩いていた。 紋次郎も、二人に気がついた。紋次郎が叫んだ。 「真由美ちゃ〜〜〜ん!」 手には、大きな掃除機みたいなものを持っていた。 二人は、紋次郎の前で止まった。 「紋ちゃん、何してるの?脚は良くなったの?」 二人は、紋次郎の左足を見ていた。紋次郎は答えた。 「この人たちが直してくれたんだよ。もう歩けるよ。これから、蜂退治に行くんだよ。」 「はちたいじ?」 「オオスズメバチを退治に行くんだよ。」 「どこまで行くの?」 転軸山頂上の弥勒菩薩(みろくぼさつ)の祠(ほこら)まで行くんだよ。 敵を察したかのように、一匹のオオスズメバチが飛んできた。 一番前の男が言った。 「あっ、オオスズメバチだ!」
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